あ、と思った時にはもう遅く、鈴を張ったような瞳からころころと零れ落ちた涙は止まる気配を見せず、文次郎の頬を伝って地面に染みを作っていく。
何が悲しいわけでも、ましてやどこかが痛いというわけでもない。
ただ、涙が止まらないのだ。
訳もなく、意味もなくほろほろと流れ落ちる涙を止める術などわかるわけもなく、文次郎はただただ立ち尽くしていた。

そして運悪くと言うべきか、そこにたまたま通りかかってしまったのが留三郎である。
いつもの調子で声をかけた相手がまさか涙を流しているとは夢にも思うまい。
「え、お前何で泣いてんだよ…」
「知らん…」
「知らんって…どこか痛いのか?伊作呼ぶか?」
滅多に見れない恋人の泣き顔に胸を弾ませつつも、はらはらと泣き続ける文次郎を気遣う。
「痛くない…ただ、涙が止まらんだけだ。体調に異変はないから放っておけ。」
ずび、と鼻を鳴らしながら留三郎に向こうへ行けと促す。
だが留三郎が立ち去る気配はなく、それどころか文次郎の泣き顔をまじまじと見つめてくる。
それに対し文句を言おうと口を開こうとした文次郎の顔を固定し、留三郎は未だ止まらず流れ続けていた涙をべろりと舐め上げる。
一瞬停止した後耳まで真っ赤にして怒り出した文次郎の目尻に吸い付き留三郎はにやりと笑う。
「目真っ赤にして…兎みてえで可愛いなぁ、文次郎。」
わなわなと体を震わせる文次郎の怒鳴り声を奪うべく、今度は唇に吸い付いた。


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