海.猿パロ



叩きつけるような雨の中、懸命に腕を掴み続ける。この手を離してしまえばあっという間に暗い海に飲み込まれてしまうであろう大切なバディを、死なせるものかと必死に繋ぎ止める。
「もういい離せ文次郎!!お前まで巻き込まれるぞ!!!」
「離すかバカタレ!!諦めるんじゃねえよ!生きて帰って、もう一度空を見るんだろうが!!」
離せと叫ぶバディを一喝し引き上げようとするが文次郎の体力も限界に近い。それを感じ取ったのかはわからないが薄く笑ったそのバディはただ一言「生きて帰れ」と文次郎に伝え、腕を振り切った。文次郎は慌てて腕を伸ばすが彼の姿は海に消えた後で、文次郎は痛いくらい吹き付ける雨の中でバディの名を叫ぶことしか出来ず、次第に文次郎の意識も暗い暗い海の底へ引きずられるように薄れていった。



カーテンから漏れる朝の陽射しが文次郎の顔に当たり、眩しさで自然と目が覚める。
この時期になると毎日見るようになる夢を今年も同じ様に見ていた。
大切なバディが海の中へと飲み込まれていく、実際に起きた事故のフラッシュバックのような夢だ。
己の力不足のせいで大切なバディを失った、その罪の意識は文次郎を長い間苛んできた。
あの事故から2年経ったが文次郎は今も悲しみと後悔を胸に抱き、人命救助を続けている。
ただ、もう一度あのようにバディと親しい関係を築くことはなかった。誰がバディになろうと己のやることはただ1つ、そう言わんばかりにひたすら技術を磨くことだけに専念していた。
そして今日は新しい潜水士が文次郎が担当する区間に配属されるとのことで、顔合わせのために集合がかかっている。
その新しい潜水士が文次郎のバディになる可能性もないわけではないが、足早に巡視船へと向かう文次郎の顔には、新しい潜水士に対する感情は何一つ浮かんではいなかった。

指定されていた集合場所に着くや否や同じ管区で共に厳しい訓練を耐え抜いた同期の潜水士、七松小平太と中在家長次が声をかけてきた。ちなみにこの2人は訓練生の頃からの長年のバディだった。
「なあ文次郎!今日配属される潜水士は誰だろうな!!骨のある奴だといいんだがなあ!」
「そんなこと俺が知るか!誰であろうと、俺がやることはただ1つだ。」
「…文次郎は…」
長次が文次郎に何かを言いかけた時に集合の声がかかる。
結局長次の言いたいことはわからないまま整列をする。
「本日付けで巡視船『うずまさ』に配属になった食満留三郎潜水士だ。」
そう紹介され涼やかな目元をした男が一歩前に出る。
「本日よりこちらの巡視船『うずまさ』に配属されました食満留三郎です。よろしくお願いします。」
「今日から食満は潮江のバディとしてやっていってもらう。くれぐれも問題は起こさないように、以上。」
文次郎は顔を上げ、自分のバディとなった留三郎を見る。
留三郎も文次郎を見つめ、しばし視線が絡み合う。どちらともなく口を開こうとした瞬間に小平太の大きな声が割って入った。
「新しい潜水士って留三郎のことだったのか!!久しぶりだなー!」
「おお小平太じゃねえか、久しぶりだな!」
何を隠そう留三郎も共に厳しい訓練を耐え抜いた同期なのだ。
再会を喜ぶ留三郎、小平太、長次をよそに文次郎は踵を返し船内へ向かおうとするが、留三郎に呼び止められる。
「おい文次郎!!バディになる相手に挨拶なしかよ!!」
その言葉にゆっくりと振り返る。
文次郎の目の前まで歩いてきた留三郎は右手を差し出し、笑う。
「久しぶりだな文次郎、これからよろしくな!お互いに力合わせて頑張ろうぜ!!」
「…せいぜい俺の足を引っ張ってくれるなよ。」
文次郎は差し出された右手を無視し、留三郎に告げる。
「ああそれと…俺がお前に助けられることなんて、ねえよ。」
言葉を失った留三郎に更に言葉を投げ、文次郎は今度こそ船内へと足を運ぶ。
我に返りなんだあの態度はと喚く留三郎を宥めつつ、長次と小平太は今後のことを思いため息を吐くのだった。


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完全なる私得かつ見切り発車で始まったシリーズ的な留文です。
海.猿大好きなんですよね…。


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