妖怪パロ、死ねた含む



ちょいと、ちょいとそこのお人。
今日はもう裏の山に入るのはやめた方がいい。
なぜって…あんた旅人かい?
なら裏の山の鬼についても知らなくても仕方ない。

月のない雨の晩には裏の山で、鬼が哭くと言う。
哀しい、愛しいと、独りの鬼は1人を求めてただただ涙を流しているそうだ。
里に下りては人を食らい、悪事を働く鬼が何を嘆くと思うだろう?
そうさね、雨も酷いことだし、ここは一つ、その鬼について話してやろうじゃないか。


ずっとずっと昔の話、鬼はね、元々は人だったのさ。
あの鬼だけじゃない、どの鬼も怨み、憎悪の感情に飲み込まれた人間の成れの果てさ。

あの鬼は人だった頃、とある学園に在籍していて、その学園は何でも忍術を教えるための場で、鬼も例に漏れず忍を志していたそうだ。
鬼は何でも学園一ギンギンに忍者していると言われていたらしい。
六年間居続けた学園で、鬼はとある人物と深い仲になったんだ。
普段は犬猿の仲と呼ばれるほど喧嘩が多かったそうだが、それでも2人はそれなりに仲睦まじく過ごしていたそうだ。
相手は勿論男だよ。あの頃はそう珍しくもなかったと聞く。
相手の男は学園一武闘派で、目元が涼やかな美丈夫だったそうだ。

話を戻すが、鬼は幸せだった。
しかし鬼が在籍していた学園は忍を目指すものが集う学園だ。
そこの最上級生ともなれば実習だってそれなりに危険が付きまとう。
ある時、鬼の恋人がとある城に捕らえられてしまったそうだ。
不幸なことにその城の城主は戦好きで、血生臭い噂が絶えない城だった。
月のない雨の晩、鬼が決死の思いで恋人を助けに向かい、そこで見つけたものは、口では言い表せないほど無惨な姿で倒れ伏している、愛しい男の亡骸だった。
鬼は泣いた。泣いて、哭いて、悲しみと、怒りと、怨みに飲み込まれて鬼になった。
城にいる人間全てを食らい尽くしてなお、心に空いた穴は塞がらず、そのまま姿を消したそうだ。

それからだよ、月のない雨の晩には、裏の山から愛しい男を亡くした鬼の、哀しい声が聞こえるのは。


おや、もう行くのかい?
あの鬼を一発殴りに行く?
なんとまあ、変なことを言うお人だね。まあ好きにしな。
それじゃあ、せいぜい死なんように気をつけるこった。


あの旅人が山に入ってから、月のない雨の晩に鬼の哭く声が聞こえなくなった。
その代わり、バカタレという怒鳴り声がたびたび山から響いてきたそうだ。


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