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「あーあ、またか」
つい先ほど付き合って3週間足らずの彼氏と別れた。
声と共に吐き出した嘆息が、白く染まる。
告白してきたのは向こうなんだけどな、という一種の理不尽さのようなものは感じても、決して悲しくはない。
私の場合、いつもそうだ。
告白してきてくれる人を無碍に扱うことはできないから、友達からという約束で付き合い始める。
けれど、決してそれ以上の進展はない。
遊園地、映画、スポーツ観戦。
定番のデートコースは経験するけれど、その後はない。
メインのイベントが終われば駅でさよなら。
その先へと進んだことは1度たりともない。
「夕妃、お前さ、いっつも俺と誰か別の男を比べてるだろ」
ついさっきまで恋人だった彼に言われた言葉。
私にそんなつもりは全くない。
全くないんだけど。
「毎回振られる原因、ソレだもんなぁ」
流石に5度目となれば、自分自身を省みざるを得ない。
「夕妃ってさ、恋愛に淡白だよね」
振られたくせに泣きもしない私に高校時代の友人が言った言葉。
だけど違う。
私は、
「恋愛」に淡白なんじゃない。
「恋人」に夢中になれないんだ。
それはやっぱり。
「まだ、忘れられないから、かな」
生まれてから中学1年の冬まで過ごした大阪。
その12年と少しの中で、初めて恋人という関係になった男の子。
12年という歳月の中ではほんの一瞬、あれから更に10年近く年を重ねた今となっては瞬きに等しい、3ヶ月間というとても短い間だったけれど。
私たちは紛れもない恋人同士だった。
彼と離れて東京に越してからの数年で、長年使っていた大阪弁は捨てられたのに、彼との思い出だけは今もまだ胸の中に残っている。
近所の人やクラスメイト、それなりに仲が良かったはずの友人たちの顔でさえ朧げなのに、彼の声や姿、それに照れたようにはにかむ表情さえも、目を閉じればはっきりと思い浮かべることができる。
それくらい本気で好きになった、初めての人。
「ねぇ、蔵くん」
逢いたいよ。
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