×繊細なカノジョ
今日明日は春休み最後の週末。
始業式直前で慌てなくてもいいように、カレシである謙也んちに押しかけて勉強会。
私が苦手で謙也の得意な理数系科目を教えて貰って、私が得意で謙也がキライな社会科系の科目を教えてあげてる。
文理選択別々だと、クラスはどうしても別れちゃうけど、こーいう時便利だよね。
「謙也ー」
そして、ある程度お互いの課題がなんとかなって、ぼーっとしてる時間が増えたので、唐突に名前を呼んでみる。
「なんー?」
「ごめん、私謙也のこと嫌いになった。別れて」
「えっ、」
なんて言ったらどうする? と訊く前に、涙目になる素直な謙也。
「ごめんごめん。エイプリルフールだよ」
さっきふと視界に入った日めくりのカレンダーが、4月1日を示していたから、ついやっちゃった。
そう弁明すれば、謙也はあからさまにホッとする。
こうやってすぐに顔にでるから、後輩の財前君とかにもからかわれちゃうんだよ。
「頼むわー、名前。そういう冗談心臓に悪い」
「ごめんね。でも気づいちゃうとなんか仕掛けたくならない?」
「まぁそのキモチもわからんでもないけど。もうちょいマイルドなのにして下さい」
別れるとか嫌いはキツイ、と苦笑する謙也。
「そう?」
「やで? 俺も名前のこと嫌いやもんって言われたらどや?」
あ、確かに。
「ウソってわかっててもチクってするね」
「やろ?」
改めてさっきの冗談を謝罪する。
「ちゅうか、最近エイプリルフールめっちゃ盛り上がっとるよな」
「そうなの?」
「らしいで。去年は財前に見せられたウソのネットニュースに騙された」
「へぇ、ニュースまで?」
「今年は……、あ、地図アプリでゲームできるようになっとるわ」
勉強中に充電してたスマホを手にとって検索してた謙也が、その画面を見せてくれる。
「へぇ、手込んでるね」
「他にもなんか色んなとこが乗っかっとるで」
と、まとめサイトみたいなところをスクロール。
「みんな何かしらしたいんだ、やっぱり」
「まぁ童心忘れんのはええことなんちゃう?」
「なんか謙也ジジくさい」
「なんやと」
言い合いながらも目が合えば、ふたりして吹き出す。
「あ、でもエイプリルフールって午前中だけなんでしょ? こういうイベントも午前中だけなのかな」
「なんかそれもウソやってきいたことあるで?」
「え、」
だとすると今日はずっと嘘しかいえないのか。
「や、まぁホンマのこと言っちゃあかん日やないんやから、別にええやろ。ムリしてウソつかんでも」
「そっか。じゃあ謙也くんに質問です」
「なんや、急に改まって」
「いいからマジメに答えて下さい」
突然のフリにも謙也は、はいはいと苦笑しながら応じてくれる。
「私たちあと1年もしないうちに高校卒業だよね?」
「せやな」
「それを踏まえて、質問です」
「はい」
マジメに、と前置きしたせいか、きちんと正座までして話をきいてくれる謙也。
「来年の今日、私たちってどうしてると思う?」
「今と一緒やろ」
シンキングタイムを1分くらいって言う前に、謙也はさも当然のように即答した。
「今日みたいに俺んちかどうかはしらんけど、こうして他愛もない話して楽しんどるんちゃう?」
「その答えにエイプリルフール要素は?」
「ゼロに決まっとるやろ。どないしたん、急に?」
「んー、なんとなく? 訊いてみたくなって」
「敢えてエイプリルフールな今日訊かんでも」
苦笑する謙也の手招きに応じると、背後からギュッと抱きしめられた。
「自分で訊いといて一瞬不安になったやろ? 嘘かもしらんて」
「……よく気づいたね」
私は謙也ほど顔にでるタチじゃないのに。
「名前のことならたいていわかるで」
「ホントに? じゃあ今何考えてると思う?」
「暫くの間こうしてて、やろ」
「……それは謙也の希望も入ってるでしょ」
「まぁな。でもアタリやろ?」
「…………うん」
=糖度100%な日常
(来年もその先もずっと一緒におるから安心しぃや)
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