×負けず嫌いなカノジョ
「ふぁ〜ぁ」
春休み最後の休日。
新学期から使うノートやペンを揃えようと買物に出かけたはいいものの、いかんせん独りだと何も楽しくない。
「財前のバーカ」
唯一誘ったのは、最近付き合いはじめたばっかのカレシサマ。
だけど、その返答は『メンドイ。んなん揃えたって頭良うなる訳ちゃうで』とつれない一言。
街ブラ買物デートのひとつくらい付き合ってくれたっていいじゃんか。
付き合ってるっていうのに、デートといえば学校から一緒に帰るくらいしかしたことない。
まぁ、財前の所属してるテニス部が全国クラスで、休日のオフが少ないから仕方ないといえば仕方ない、と思うのだけれども。
「たまのオフの日くらい会ってくれたっていいじゃんか」
さすがのテニス部も、長期休み最後の週末はオフだってことは、予定表をみせて貰って知っている。休み中に出された課題をやるためのオフっていうタテマエはあるらしいけど、そんなことをあの財前が律儀に守るとは思えない。
どーせ家でダラダラ音楽きいたり、曲作りしたりとかして引きこもってるだけのクセに。
「あ、」
と、内心で財前に対する文句を並べ立てていたら、いつの間にか学校帰りによく訪れる甘味処・茶々の前に来ていた。
確か今日って……。
スマホの画面を確認すると、そこの日付は4月1日を示してる。
そのままロック解除してスラスラと出不精なカレシサマ、もとい、財前にメッセージを送る。
『茶々から善哉が消えたらしいよ』
毎回来るたびに財前が頼む好物、善哉。
これがなくなった、なんてなれば、もしかしたら慌てて来るんじゃないの。
そんな歪んだ期待を込めたのだけれど、すぐさま返ってきた文章は。
『エイプリルフールやろ。その手には乗らんで』
とまぁ、小馬鹿にしたような素っ気ないもの。
ここで折れるのはなんか悔しいので、次の手段を講じることにした。
「いらっしゃいませー」
カランカランとドアベルを鳴らし、モダン和風な甘味処の店内へ。
いつも財前と座る奥の席で待っていると。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい」
水なんかと一緒に店員さんが持ってきたメニュー表を開いてパシャリ。
撮った写メを加工して、と。
いくつかある善哉メニュー全てに取り消し線引いて、吹き出し使って「都合によりご提供を中止させていただきます」と文字を入れる。
『ウソじゃないしー』の一言と一緒にそのコラージュ写真を送信。
これだったら慌てるでしょ、と思ったのも束の間。
『凝ったコラやな。騙されんぞ』
と、間髪入れず返信が。
『ウソじゃないって』
『ウソやろ』
……くっそ、こんなやりとりになるなら扉開ける前に写メっといて、張り紙でっち上げてやればよかった。
と、後悔するも、既に店内なので、あんまり不審な動きはできない。
『証拠は? 茶々にいないのになんで断言できるの』
「そら、おるからな、ここに」
悪あがきで返したメッセージに、呆れたような肉声が。
「財前っ!? ウソ、いつの間に!?」
「名前の来るちょい前から? ひとり善哉したろ思て」
驚く私に対して、淡々と答えを返す財前。
ていうかなんなんだ、ひとり善哉て。
デートの誘い断ったクセに。
「どこにいたのさ?」
「あっち」
と、財前が指し示すのは普段は嫌だと言って避ける大通りに面した窓際の席。
完全に盲点だった。
「通りにお前の姿が見えたから、こっちこいってメッセ送ろうかと思てたら、『善哉消えた』やろ。オモロそうやからノッたろ、思て」
必死に写メ加工しとんのとか見てて笑えた、なんて言ってくるあたり、やっぱ財前は性格悪い。
「んな、如何にもなウソつく名前が単純なんやろ」
と、さらに傷口に塩塗ってくるし。
言い返す言葉がないので、代わりに涙目で睨んでやると、財前はバツの悪そうな顔をして。
「で?」
疑問符のついた一文字。
「なに?」
「欲しいもの、買えたん?」
「まだ。雑貨屋行く途中」
あ、誘ったことは覚えててくれたんだ。
「ふぅん」
興味無さげに相槌を打って、窓際の席から持って来たらしい食べかけの善哉と、水をおいて私の目の前に座る。
「なら、一緒に行く? これ食い終わったら」
「…………いいの?」
あれだけ即答で断られた手前、不信感があらわになる。
「まぁ、たまの休みやし。しゃーないから付き合うたるわ」
「これもエイプリルフールとかはナシだよ?」
「時計みてみ。今午後やろ。エイプリルフール有効なんは午前中だけや」
……素直に一緒に行くって言えばいいのに。
捻くれた答えに思わず苦笑。
でも、こんなところも好きになった理由のひとつだから許してあげよう。
=お出かけ日和な午後
((断ったんも、エイプリルフールのつもりやってんけどな))
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