×淡白なカノジョ



「白石っ、だいじょ……」
「おー、来たな名前」

健康ヲタクな白石から『風邪引いた。39℃。動けん』というメッセージが入っていたので、薬局だのコンビニだのをハシゴして、看病グッズを整えて駆けつけたーーのだが。

「おー、じゃないわっ! めっちゃぴんぴんしてんじゃんっ!」
「まぁな」

病人のフリでもしてるつもりか、ベッドの背にあてたクッションにもたれながら片手をあげる白石は、どっからどうみても健康そのもの。

……少しでも心配した私がバカだった。

「…………帰る」

まったくのムダになってしまった看病グッズを置き去りに、部屋を出ようとすると。

「わーっ、待った待った!」

およそ病人とは無縁の素早さで通せんぼする白石。

「待たない。だってそれだけ元気なら別にいいでしょ」

春休み最後の土曜日の、ぐうたら計画を台無しにされたため、私の機嫌はすこぶる悪い。

……あのメッセージさえなければ、今頃は楽チンな部屋着で、昼寝してるかテレビみてるか、気が向いたら、いい加減手つけなきゃいけない春休みの課題をやったりしてたはずなのに。

通せんぼしてくる白石の腕を押しのけようとするけれど、一向にビクともしない。

「帰らせて」
「イヤや」
「なんでよ」
「何でも。ちゅうか別にええやろ、名前どうせ家でぐうたらしとるだけなんやろし」

……口に出してないはずなのに、すっかり見透かされてる私の予定。

「ち、違うもん。今日はさすがに課題追い上げるつもりだったもん」
「課題て、まだ終わってへんのか」
「まぁ、終わってないっていうか、はじめてないっていうか……」

マジメな白石のことだから、こう言えば解放してくれるはずだと思ったんだけど。

「ま、別にええやん。課題なんて後でいくらでも写させたるし」

普段の白石からは想像できないような返答が。

これ、毎度毎度宿題写させろって言って突っぱねられてる忍足とかがきいたら怒るぞ、絶対。

「アンタらしくもない。熱でもあんの?」
「やから最初から言うてるやん、病気やって」
「…………先に言っておくけど、恋の病とかアホなこと言ったらシバくからね」

ムダにキメ顔になった白石を半眼で睨めば、うっと言葉に詰まる。

マジか。
そんなベタなキザ台詞、いまどき誰も口にしないぞ。

「しゃあないやん。フツーに呼び出したところで、自分一切応じてくれへんのやし」
「まぁね」
「……恋人同士やったら長期休みに入ったら遠出のデートするとか、そうでなくても会いたいとかはなるやろ。フツー」
「そんなもん?」
「そんなもんや。現に俺名前不足が深刻」

こてん、と私の肩に頭を乗せる。

なんだ、意外と甘えたなんだ。

付き合って暫く経つけど、今までそんな素ぶり1度もみたことない。
もしかして、淡白な私に合わせてくれていたんだろうか。

「しょーがないなぁ……」

妥協を口に出せば、パッと顔をあげる白石。

「って、言ってあげたいトコだけど、ウソついたからまた今度ね」
「え、」

ついでに緩んだ腕の隙間を抜けようしたけれど、すぐに後ろ手を掴まれる。

「文句あるの?」
「別に今日はええやん、嘘ついても」

じとっとした視線を投げると、白石はむすっとした表情を浮かべる。

「なんで」
「やってほら」

そんな白石がポケットから取り出したスマホの画面にはデカデカと4月1日という日付が。

……やられた。
エイプリルフールだってこと、すっかり忘れてた。

「…………課題、」
「ん?」
「課題ホントに写させてくれるなら、いいよ」

降参して、白石にお家デートの許可を出すと、すぐさまギュッと抱きしめられた。



ハルイロな休日




(……あの時写させてくれるって言ったじゃん)
(エイプリルフールやったやろ。文句言ってないで頭使いやー)
(…………オニっ!)

結局課題は写させてもらえず、白石のウチで勉強会させられたのは、また後の話。





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