Prologue 2/2


ボールはすぐに見つかった。
ただ、問題なのはそれの上を矢が飛び交うこと。
田村のホームランボールは見事、弓道場の安全柵さえも飛び越えとったんや。
代理でボール取りに来て、矢に当たったとか洒落にならへんわな。

適当なやつに声かけて、取ってもらうか。

誰か弓道部関係者がいないかと首を巡らせていると、ちょうど射場から出てきた袴姿の女を見つけた。

「あの、すんません」
「なに?」

触れたら切れそうな印象を与える冷たい声音。
吊り目がちの瞳がこちらを見上げてきた。
整った目鼻立ちをしとるけど、どこか凍てついた冬の空気みたいな印象がある無表情な女やった。

謙也たちが騒いどった女は、こいつか。
直感的にそう思った。

「隣のテニス部ですけど飛んできた球、とって貰えませんか?」

人受けのいい笑顔を浮かべて頼めば、じっと見定められた後、

「……ふぅん。テニス部にも一応常識を持ち合わせた人間がいるのね」

目の前の女は顔色ひとつ変えず、淡々とした口調で言った。

「私が良いっていったら、さっさと入って取っていって」
「あ、はい」

俺が素直に返事をすれば、用件はすんだとみたのか、こちらに背を向けて的場へ向かう。
この間、無表情は全くかわらん。
しかもボールは自分で取れ、と。

これまで相手にしてきた女は、俺が笑顔で頼みごとをすれば何でもしてくれたんやけどな。

俺の存在すら気に留めていないような扱いを受けたのは十数年生きてきた中で、初めての経験やった。

なんや、おもろい女やな。
退屈しのぎにはなるかもしれん。

口角が吊りあがるのが分かった。


遊戯 開幕



(せいぜい俺を楽しませてや)




-5-


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