Jealousy2/2


「ねぇっ、ちょっと待ってよ、蔵ノ介っ!」

斜め後ろから、焦ったように叫ぶ桜架。
俺に半ば引きずられるようにして歩いとるせいか、足音が不規則に乱れとる。

「何でそんな怒ってるのっ」
「……別に。怒ってへん」
「嘘。絶対怒ってる」

痴話喧嘩のようなやり取り。
早足で街中を歩きながら、桜架とこんな会話を交わすハメになったきっかけは、少し前に遡る。



***



部活仲間と別れて向かった桜架の通う大学。
正直見学っちゅうのはヤツらから桜架を引き離すための建前やったけれど、彼女が割と真剣に案内する気になってたから、その流れに乗っかって、キャンパス案内をして貰てた最中のこと。

「あれ、御釼さんじゃね」
「うわ、ショックー。男連れてんじゃん。ちょっと狙ってたのに」

刺さるように集まる好奇の視線。
その殆どが、憧れの的らしい桜架の隣におる俺に向けられたもの。

……アイツらから離れれば、多少落ち着くかと思たんに。

思わず小さく舌打ちをしてしまう程、募る苛立ち。
そしてちらりと横目で桜架を見れば、周囲のことなど意に介さずに構内案内図を見上げとる。

……ったく、これじゃ何のためにピアス開けさせたんだか。

相変わらず危機感の乏しい横顔に、悶々とした想いは積み重なっていくばかり。
それが臨界点を突破するのは、桜架の同級生が話し掛けてきてすぐのことやった。

「ねぇ御釼さん。隣のコ誰ー?」
「何かめっちゃカッコよくない?」

見るからに派手な女子の集団。

「あ、もしかして弟君ー?」
「えっと、」
「ちょっと紹介してよー」
「あの……」

彼女らの押しの強さに負けて、おどおどするばかりの桜架。

あぁ、もう。
何ではっきり言わんねん。

「白石蔵ノ介言います」

苛立ちを、顔面に貼り付けた人あたりのよい笑みで覆い隠して、桜架の肩を力一杯抱き寄せる。

「桜架の彼氏です」

周りを囲っとった女子達の目が、驚きに見開かれた。

「マジ?」
「御釼さん、彼氏いたんだ」

漏れ聞こえる囁き声。
それが最後の箍を外し、冒頭に至る。



***



「蔵ノ介っ、だから、何で怒ってるのっ、」

大学から程近い場所にある桜架の下宿。
玄関に連れ込んで、閉まった扉に彼女を押し付ける。

「自分の胸にきいてみ?」

両腕の自由を奪い、低い声で問えば、怯えた瞳がこちらを見上げる。

「わ、たし……、何かした?」
「わからんの?」

彼女の頭上で腕を縛り上げとる手に力を込めると、桜架の顔が苦痛に歪む。

「わざわざ似合わんカッコしてまで、男誘惑しとるクセに?」
「誘惑なんか、」
「してへんって?彼氏いることも伏せとったんやろ」
「だって……、」

返す言葉を失ったのか、口を噤む桜架。

「俺のおらんトコで、こないに洒落気出して何したかったん?」
「それはっ、」
「それは、何や?」

黒目がちな瞳が揺れる。
それを覗き込むように迫れば、桜架は躊躇うように、押し黙った。

「何や、理由があるなら言うてみ」

声のトーンを僅かに和らげてやると、桜架は弱々しく垂れ下がった眉でこちらを見上げた。

「……不安になったから。蔵ノ介が東京来るってきいた時」
「不安?何でまた」
「大学生になって周りはすごくお洒落なコばかりで、でも、私だけ垢抜けなくて。そんな私じゃ、蔵ノ介に飽きられちゃうんじゃないかって……」

予想もしてへんかった答え。
桜架らしくない饒舌っぷりが、彼女の不安の大きさを物語る。

「やったら、その格好は……」
「蔵ノ介にみせるため、だよ」

その一言で、激昂しとった感情が鎮まる。
代わりに押し寄せるのは、羞恥と後悔。

桜架の腕を縛り上げていた手を解き、ずるずるとその場にしゃがみ込む。

「蔵ノ介?」

そんな俺に対して、耳元で気遣うような声音。

「こっち見んな」

片手を伸ばして、桜架の視界を隠す。

今は絶対情けないカオしとるから。
こんなトコ、桜架に見られたない。

……ったく、嫉妬なんてモノ、俺には無縁やと思うてたんに。

あろうことか、それに駆られて感情のコントロールを失うとは。
人前で演じとる“白石蔵ノ介”としても、本来の俺自身としても、らしくないにも程がある。

「大丈夫?」

盛大な溜息をついて、頭をあげると、心配そうな顔をした桜架と、ばっちり目が合った。

……ホンマ、桜架相手やと調子が狂う。

心中でひとりごちて、彼女の手を引けば、自然と俺の腕の中に倒れ込む。

「……悪かった。桜架の気持ちも考えんで、さっき、酷いコト言うて」

素直に謝って、身体を離す。
そして、さっきまでは嫉妬心を掻き立てるだけやった桜架の姿を改めて目にすると、今度は言いようのない愛しさが込み上げる。

「蔵ノ介?」

見詰められて戸惑いを浮かべる桜架を、もう1度腕の中に閉じ込める。

「さっきの、嘘やから。その……、今の格好、……すごく、似合うとる」

たどたどしくも、正直な感想を口にすれば、腕の中の彼女は、照れたように笑った。



醜い嫉妬



(きっと、これから先も、俺の心を揺さぶるのは桜架だけ)



(翌日)

(桜架)
(何?)
(来年の春までは、今以上に洒落込むの禁止な)
(え、何で?)
(何ででも(俺の知らんトコで、今以上に綺麗になられとったら心配で溜まらんっちゅうねん))




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