Mistake 3/3


けれど、私を襲うはずのそれは一向に訪れない。
それどころか押さえつけられていた腕さえもぱっと手放された。

疑問に思い、恐る恐る目を開けると、私の前に立ちはだかる広い背中。
その奥に、愕然とするファンクラブの姿が見える。
彼女たちの視線を追って顔を上げれば、少し眉を顰めた白石君の横顔がある。
彼の左腕からは、ぽたぽたと鮮血が滴っていた。



「しら、いし君……どして……」

長い沈黙を破ったのは、ファンクラブの方。

「どうして?それは俺が聞きたいわ。カッターなんて物騒なもん取り出して、先輩らここで何しててん?」
「そ、れは……」

決まり悪そうに顔を背けるファンクラブ一同。

「先輩らが何を勘違いしてはるんかわからんけど、俺は御釼先輩を迷惑だなんて一度も言うたことないし、先輩らにこないなことしてくれとも言うた覚えはないですけど?」

いつもより低いトーンで諭すように言う白石君に、ファンたちは一層項垂れる。

「……ごめんなさい」
「この事口外はせえへんから、安心して下さい。けど、もう二度とこんなことしたらあきまへんで」

素直に謝った彼女たちに白石君がいつもの笑顔を向けると、ファンクラブは散り散りになって去っていった。



「御釼先輩、怪我してはりません?」

その様子をただただ呆然と地面に座り込んで眺めるしかできなかった私に、白石君は右手を差し伸べる。
けれど、私の視線は運動部とは思えないほど白いその腕よりも、同じ白さの中に赤い線を走らせている左腕に固定されていた。
手首から肘の真ん中を横切るその線からは、まだ真っ赤な雫が毀れている。

怪我をして痛いのは白石君の方なのに。
こちらを気遣って手を差し伸べる彼の笑顔に、私は胸を締め付けられた。



彼の腕を伝う血の色が
過ちに気づかせる



(離れて、と言えなかったのは)
(彼の優しさに甘えていたから)




-20-


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