Rolling stone 2/2


彼女に引きずられるようにして訪れた場所は屋上。
先を行く彼女が扉を開けた瞬間、視界に入ったのは10名ほどの女子の群れ。

「こんな時間に呼び出して悪いんやけど、私たちあんたに話があるんや」

女子の中心にいた薄茶色の巻き毛の女性が言う。
ブレザーのタイの色から上級生だと分かった。

「悪いと思うなら手短にすませていただけます?次移動教室なので」
「そう……。じゃあお望みどおりに単刀直入に言わせて貰うわ。あんた、邪魔や」


「は?」

何なんだ、この人。
初対面の人間に邪魔だとか、失礼にも程があるだろう。
眉間にしわを寄せると、「わかってないんやね」と小馬鹿にしたような溜息。

「最近、白石君といっつも一緒にいるやろ?それが邪魔やっていうてんねん」

彼女の周りにいる派手な女子が声を荒げたのを皮切りに、方々から声があがる。

「こないだやって2人で一緒に帰っとったやろ!」
「あんた白石君のなんやねん!」
「あんたみたいな冷淡な女、白石君には似合わへんわ!さっさと離れや!」
「だいたい白石君は簡単に話しかけてええ人ちゃうねん!」
「白石君がちょっと優しいからって調子のるんやないで!」

……あぁ、これが例のファンクラブってやつか。

しかも、休み前に一緒に帰ったところ、やっぱり目撃されてるし。
大丈夫だと言い張った白石君に文句を言ってやりたい。

はぁ、と溜息をつけば周りを取り囲むファンクラブが一斉にびくついて静かになった。
そういえば、『雪の女王』は冷酷だなんて言われていたっけ。
白石君と関わるようになってから、そう呼ばれることが少なくなったから忘れていた。

「で、結局貴女たちはどこに文句があるわけ?」
「だから、さっきから言うてるやんか!白石君と関わるなって!」
「白石君と話さんで!」
「仲良うせんでくれる?」

自らの主張ばかりを押し通そうとする彼女たちに嫌気がさす。
赤の他人から交友関係について口出しされなければならない謂れはない。
それは白石君にしたってそうだろう。

「……言いたいことはそれだけ?」
「せ、せや!」

語気を強めて、餌を待つ小鳥のように口々に喚く一同をじっと見据えれば、彼女たちは一歩に引きながらも威勢のいい声をあげる。

「……じゃあその用件は貴女たちの大好きな白石君にでも言うのね。関わり合おうとしてくるのは向こうだから」
「んなわけないやろ!ちょっと綺麗やからって適当なこと言うてんやないで!」
「せや!いっくら白石君が優しても『雪の女王』と積極的に関わるはずないやろ!」

その物好きが貴女たちの好きな白石君なんだけど。

人というのはどうにもこうにも自分に都合のいい事実しか見ようとしない。

「だったら白石君に聞いてみたら?貴女たちは簡単に話せないって言うけど、訊いたら結構気さくに答えてくれるよ、彼は」
「なんやとぉ!知った、」
「待ちや」

激昂した女子の一人を片手で制して、リーダー格らしい先輩がこちらを睨む。

「そこまで言うんやったら、現状については白石君にも尋ねてみるわ。でもひとつだけ確認させてくれへん?あんた自身は彼のことどう思ってるん?」

彼女に問われて思考を巡らす。

「……友達」
「ほんまに?」

答えるまでに少し間が空いたのが気に入らないらしく、こちらをねめつけるようにして再度問うてくる先輩。

「それ以上でも以下でもない。貴女たちが危惧してるような感情は微塵もないから安心して。多分向こうもその程度にしか思ってないだろうし」
「……そう。なら、ええわ。手間とらせて悪かったわ」

全くだ。
貴女たちのせいで、トラに会いに行く時間がなくなってしまったじゃないか。
という文句を心のうちに留めて、私は無言で屋上を後にした。



***



これだけ言っておけば、もう面倒なこともないだろう。
彼女たちもできるだけ私と関わりたくないはずだし。

このときの私は、そう楽天的に考えていた。



転がり始めた石
止まることを知らない



(さぁ堕ちて来や)
(抜けだせんくらい深くまで)




-17-


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