大学に通い始めて2ヶ月が過ぎた。
珍しくバイトのシフトも入っていない土曜日。
けれど、謙也君との予定も合わなくて、課題のレポートを仕上げたり、ごろごろとしながら1日を終えようとしていた、その時。

ガガガガっ!

マナーモードにしたままのケータイが机の上でけたたましく震えた。

『もしもし、なずな?』

耳元で聴こえるのは、謙也君の声。

『今何しとる?』
「え、家でだらーんとしてるよ」
『ほな、今から時間ある?よかったらちょっと出掛けん?』
「うんっ」

逢いたいけど、逢えない日ばかりが続いてたから、嬉しさで胸が弾む。

『なら、10分後になずなんちに迎え行くわ』
「じゃあ私も最速で準備するね」
『おん』

通話を切って、お気に入りの服を箪笥から引っ張り出す。

メイクして、髪もまとめて。
やらなきゃならないことがたくさんあって、それらに追われるうちに、謙也君がチャイムを鳴らした。

「こんばんは、お待たせしました」
「ほな、行こか」

慌てて玄関を飛び出した私に、笑顔を向けた謙也君が、そっと手を絡めて、アパート前に停めた車まで案内してくれた。

「どこ行くの?」
「んー、着いてからのお楽しみ、やな」

悪戯っぽく笑う謙也君に、ドキッとする。

彼の好きなアップテンポな曲をガンガンに流しながら、向かった先は。

「海?」

とは言っても、海水浴場みたいなきれいな砂浜ではなく、ごつごつと岩だっている。
花火などの遊びにも適さないため、当然人気もないし、灯りもそれほどはない。

「ま、海やなくてもよかったんやけど、俺らの住んどるトコから1番近くで、空が綺麗に見えるんがここやから」

ほれ、と夜空に向けた謙也君の指先を追うと。

「うわぁ……っ!」

視界いっぱいに広がる天の川。

こんなにたくさんの星は、街中では見られない。

「綺麗やろ」
「うんっ」
「バイト終わってから今日が七夕やって気づいてな、なずなと星見たいなって思うてん」

喜んでくれてよかった、と笑う謙也君に、ありがとうとお礼を返す。

「謙也君に逢いたいなって思ってた時だから、すごく嬉しかった」

感謝の意を込めて、謙也君の頬に唇を寄せると、星影のもとでもはっきりわかるくらいに、顔に朱を走らせた。



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