「さーさーのーは さーらさらー」

上機嫌に童謡を口ずさみながら、マッキーと色紙を手にしとるんは、テニス部マネージャー兼幼馴染みで、かつ、今年の春から付き合い始めた水無瀬日和。

「さっきからせっせと何書いとるんや、日和?」
「五色の短冊や。明日七夕やんか」

そういや、こないだオサムちゃんが、近所のおっちゃんに貰ったとか言うて、部室前にでっかい笹を置いてったっけ。

「せっかくの貰いモン、有効活用せんと、と思って」
「有効活用?」
「困った時の神頼みって言うやんか」

胸を張った日和は、首を傾げる俺の眼前に、鮮やかな黄色の短冊を突き付けた。

「……『今年こそ四天宝寺が全国制覇できますように 部員一同』」

それに書かれた願い事を口にすれば、彼女はエラいやろ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。

「却下」
「えーっ!?なしてなん、ひー君!白石先輩らの雪辱晴らすんやなかったん?」

短冊をぽいと放かると、口を尖らせる日和。

「アホ。そーいうんは願うよりもたくさん練習するんが先やろ」
「ほなこれは?」

そんな彼女に諭すように言うと、今度は桃色の短冊を手渡してきた。

「『ひー君とずっと一緒にいれますように』……ってアホか。部室の笹に私的な願いを吊すなや」
「あ、やっぱり?」

てへ、と舌を出す日和を小突いて、こちらもごみ箱へ。

「ちゅうか、こんなんわざわざ神さんに願わんでもええやろ」
「なして?」

きょとんとする日和。

「……言葉の裏を読めや、アホ」

わざわざ願わんでも、叶えたるっちゅうことや。

悪態混じりに教えてやれば、日和の顔が、一瞬で真っ赤に染まった。



(ほな、何書こう?)
(別に俺らが書かんでも、他の奴らが書くやろ。遠山とか遠山とか)
(金ちゃんしかおれへんやん!)



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