鬱陶しい長雨の合間。
久し振りに顔を覗かせた太陽は眩しくて。
葉に残る露がきらきらと輝いている。
「晴れてよかったね」
「せやな」
涼やかな目元を綻ばせる蔵。
今日は、蔵の大好きな植物園に来ている。
「あ、紫陽花」
視線を向けた先に、深い青色の花をみつけた。
「まだ咲き始めやな」
くす玉みたいなそれにひかれて近くに寄ると、背中から蔵の声。
「なんでわかるの?」
「青いからや。紫陽花の色はアントシアニンや補助色素、土壌の酸性度や開花からの日数で変わんねん」
蔵の言葉に抱いた疑問をそのままぶつければ、彼の草花に関する知識が、流暢に口をつく。
「そうなの?私、リトマス試験紙の要領だってきいたけど」
「一般にはそう言われとるけどな。土の酸性度は色を決める要因のひとつっちゅうだけで、例えば最初は青くても、咲き終わりになると赤みがかってくんや」
「あ、だからこれは咲き始め?」
「せや」
満足そうに笑みを深める蔵。
彼の草花に関する知識量には、本当に目を剥く。
「因みに色を決める要因のひとつであるアントシアニンは毒なんやで?紫陽花は蕾や葉、根にも毒があるから誤って摂取すると眩暈や嘔吐、呼吸麻痺おこすから、間違うても食うたらあかんで、ひな?」
但し、その分野はかなり偏りがあるけれど。
「って、すまん。また語りすぎてしもたな」
しまったと言わんばかりに、口元を手で隠す蔵に苦笑を返す。
「いいよ。蔵の毒草好きはもう慣れたし」
初デートでゲルセミウムの毒性について熱弁されたくらいだから、余程好きってことはよくわかる。
「それに、私はそういうトコもひっくるめて蔵が……、」
好きだもん。
先細りした小さな言葉だったけれど、蔵には充分伝わったようで。
ほんのりと頬を紅く染めていた。
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