そわそわ。
そわそわ。

ひー君から告白紛いのことされて、単なる幼馴染みから微妙に昇格してからひと月。

久しぶりにまるっと1日部活がない休日の今日。
ひー君から、駅前に新しくオープンしたカフェに行こうと誘われて。
現在そこのガーデンテーブルで、2人で向き合って絶賛ティータイム中。

デート……で、ええんよね……?

今までにも数回、ひー君と2人きりで出掛けたことはあったんに、今日はやけに緊張してしまう。

「日和」
「ひゃいっ!?」

落ち着かない気分で視線を泳がせたり、俯いたりしとれば、ひー君が不審げに声を掛けてくる。

「……ぷ、」

上擦って舌の回らない返事と一緒に顔を上げると、ひー君と目が合って。
ひー君は数瞬こちらをまじまじと見詰めた後、小さく吹き出した。

「なっ、」
「……緊張しすぎやろ、お前」

声を噛み殺して笑うひー君に、抗議の声を上げると、片手で制されて、苦笑を向けられた。

「もうちょいいつも通りにしとれ」
「せ、せやけど、」

緊張し過ぎて、最早いつも通りがどんなんやったかさえ、思い出せへん。

「とりあえず、ハイテンションでへらへらしとればえぇねん、お前は」
「そんなんウチがアホのコみたいやん」
「みたいっちゅうかまんまアホやん」
「な゛っ」
「お待たせしました。本日のケーキセットお2つでございまぁす」

ウチの反論を制して、間延びした店員さんの声が割り込む。

「小豆のチーズケーキとホットコーヒーご注文のお客様」
「はい」

片手を上げるひー君の前に置かれるティーカップ。

……何でやろ。
何の変哲もないただの挙手。
たったそれだけの仕種なんに、カッコイイ。

「……日和。食わんの?」

ぼーっとひー君に見惚れとると、ひー君のフォークがウチの前にいつの間にか置かれてたショートケーキを指す。

「いらんなら貰うで?」
「た、食べます食べますっ!」

ひー君程やないけど、ウチかて甘党。
ケーキを目の前にして、易々と奪われる訳にはいかへん。

ウチがケーキにフォーク指すんをみたひー君は、何事もなかったように、自分のコーヒーに口をつけた。



***



「「ごちそうさまでした」」

ショートケーキと紅茶を堪能して手を合わせる。

「美味しかったね」
「せやな」

ひー君の舌にも合うたんか、ほんの少しやけど、口元に笑みを載せとる。

「あ、」

さりげない微笑みを浮かべたひー君の瞳が僅かに見開かれたかと思うと。

「!」

細くて長くて骨張った指が、ウチの頬に触れた。

「……クリームついとった」
「っ!」

ひー君は、指で掬い取ったクリームを舌で舐める。

その艶っぽさにウチの心臓が急加速。

「日和、めっちゃ真っ赤」
「ひー君のせいやもん……」

朱に染まる顔を背けるのが、喉の奥で笑うひー君に対してウチができる精一杯にして唯一の抵抗。

目の前の彼にウチが敵う日は当分来ない。

それを改めて悟った1日やった。



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