今日は3月14日。
世間でいうところのホワイトデー。
「えぇなぁ、日和」
物欲しそうな顔で、ウチの腕ん中を見詰める金ちゃん。
「ワイにもちょっと分けてーや」
「ダーメ。これはみんながウチにくれたもんなんやから」
先月のバレンタインに、クラスメイトにバラまいた友チョコ。
ひー君への本命チョコの練習に作ったモンやったんやけど、それが意外にも好評で。
お返しと称して、クッキーやらマシュマロやら可愛いらしいモンを一杯貰た。
「ちゅうか、金ちゃん。今日はホワイトデーやろ?バレンタインにお菓子貰た人は、お返しせなならん日なんやで」
「え、そーなんっ!?どないしよ、ワイなんも持ってへん……!」
隣で慌てる金ちゃんから視線を外して、溜息。
やっぱ誰も教えてへんのか。
まぁ、金ちゃんにあげた人らはみんな、このコからのお返し求めとる訳やないから、それでえぇのかもしらんけど。
「あっ、財前ー!」
しょげてた金ちゃんが、前方を歩いとったひー君に向かって走ってく。
「なぁなぁ財前!お菓子か何か持ってへん!?」
「は?」
金ちゃんの大きな声で、会話は丸聞こえ。
「さっき日和に教えて貰たんやけど、今日ワイみんなにお菓子渡さんとあかんねん」
手の中のモンを落とさんように、ゆっくりと金ちゃんの後に続けば、ねだる金ちゃんの頭をひー君が小突いた。
「アホ。そーいうモンは自分で用意しぃ。ちゅうか、お前今年も忘れとったんか。去年も一昨年もその前も、先輩らに言われとったやろ」
と、呆れるひー君の言葉に、ウチは苦笑を浮かべる。
貰うはえぇけど、あげるん忘れるとか、ホンマ金ちゃんらしいわ。
「うぅー……。日和ー、ワイ今日何も持ってへんから、お返し、今度でもえぇ?」
「おん。いつでもえぇよ」
「おおきに!」
眉尻を下げた金ちゃんに頷けば、すぐに笑顔を取り戻して、部室へ走ってった。
「……日和、」
「!」
金ちゃんの背中を見送っとると、唐突にひー君が声を掛けてきた。
「それ、全部お返し?」
「お、おんっ!と、友チョコばらまいた分が戻って来てんっ!」
「ほーん」
2人きりやと意識してまうと、緊張ばかりが先立つウチに対して、ひー君は至って冷静そのもの。
つっかえまくりのウチの言葉にも、素っ気ない返事だけが返される。
「やったらこれはいらんな」
「あっ!?」
ニヤリと意地悪く片頬を吊り上げたひー君の手には、可愛らしいラッピングバック。
中を見なくても、その袋だけで、毎年ひー君がお返しでくれる、和菓子やさんの金平糖やってわかる。
「いるっ!めっちゃ欲しいっ!」
「やってもえぇけど、そないに甘いモンばっか食って、太ってもしらんで?」
「うぅー……」
ウチが最近体重気にしとるんを知ってて言うあたり、やっぱひー君は意地悪や。
「……なんて、冗談や」
本気で頭抱えとると、ひー君は喉の奥でククっと笑うた。
「なっ!?」
ウチが勢いよく顔を上げると、笑いを噛み殺すような表情で、「ほれ」と金平糖の袋が渡される。
「それとついでに、」
ラケットバックのサイドポケットから、ひー君が出したんは。
「エコバッグ?」
確かウチがバレンタインの時に渡したやつ。
ひー君はその翌日に返そうとしてくれたんやけど、ウチがそのまま持っとってってあげたやつや。
「それ、運ぶん大変やろ」
ご丁寧に袋の口を開けてくれるひー君に甘えて、腕の中のお菓子を全て入れた。
「おおきに」
「ん。ほな、部活行くで」
「おん」
さりげなくエコバッグを持ってくれるひー君の優しさが嬉しくて、小さくお礼を言うたら、ちょっぴり照れ臭そうに頷いた。
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