合格発表も無事すんで、今日は待ちに待ったホワイトデー。
バレンタインに逆チョコならぬ逆マカロンをくれた蔵に、お返しするため、朝から張り切って準備していた。
「……よし、できたっ!」
ランチボックスに、ロールサンドと小さなカップで作ったゼリーを詰めて完成。
「ひなー、白石君迎えに来てくれてるよー!」
絶妙なタイミングでお姉ちゃんの声。
玄関の鏡で全身の身嗜みを最終チェックしてから出掛けてく。
「お待たせっ」
「おはよ、ひな」
春らしいグレーのコートに、若草色のマフラーが映える。
私服姿の蔵は、いつ見ても大人びてて格好いい。
ここ数ヶ月は、受験の為にデートもしてなかったから、尚更ドキドキしてしまう。
「そないに見詰められると、なんや恥ずかしいんやけど」
照れ笑いを浮かべた蔵に、私も何だか恥ずかしくなって、思わず「ごめん」と謝った。
「謝らんでもええよ」
蔵の手が私の頭に乗る。
「て、あれ?ひな、メイクしとる?」
撫でてくれるその手が心地好くて、目を細めていると、至近距離にあった蔵の目が僅かに見開かれた。
「あ、うん。お姉ちゃんが合格祝いにメイク用具一式くれて。せっかくだから練習してみたんだ」
と言っても、何せ初メイク。
失敗が怖くて、めちゃくちゃナチュラル。
けれど、蔵はそんな些細な変化にもちゃんと気づいてくれて。
それがすごく嬉しくて、自然と口元に笑みが浮かんだ。
「あかん……」
「え?」
ぽそり、と頭上に降る声。
見上げれば、蔵と目が合うけれど、すぐに逸らされてしまった。
「蔵?」
「…………あかん。ひな、綺麗になりすぎや」
心臓バクバク言うてて、直視できひん。
そう言った蔵は、口元を手で隠しながら、珍しく頬を紅潮させていて。
その様子に今度は私が目を瞠る番だった。
「私たち、何だか付き合いはじめた頃に戻ったみたいだね」
「せやな」
一昨年の秋、初めて蔵とデートした時も、お互い緊張してて、ちょっとぎこちなかった。
蔵もそれを思い出したのか、くすりと音を立てて笑う。
「やけど、流石に1年以上経つんや。あん時とはちょっとちゃうで」
そう言いながら、蔵は私の左手をとって、さらっと恋人繋ぎにかえた。
「あん時は、こうするんにも目茶苦茶勇気いったんに、今はフツーに繋げるし、な」
「進歩かな?」
「進歩やろ」
手を繋いだまま、2人で顔を見合わせて笑った。
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