「髪よし、制服よし、リップよし」
朝。登校前。
玄関の姿見で念入りチェック。
中学生になったばかりの弟には、「ただ学校行くだけなのに何そんな気合い入れてるの」と呆れられた。
だって今日は私立大学の受験ラッシュを終えた後の、久しぶりの登校日。
「荷物も……よし」
そして、女の子にとっての重要イベント、バレンタインデーでもあるんだから。
去年までは友達同士で市販の面白いチョコを交換したりしてたけれど、今年は別。
去年の秋から付き合いはじめた謙也君にあげたくて、初めて手作りチョコに挑戦した。
お菓子作りのスキルが低い私だけれど、昨日家族に試食して貰ってるから味は保証できる。
謙也君喜んでくれるかな。
ドキドキしながら、いつもの待ち合わせ場所に向かった。
***
「謙也君、おはよー」
私より先に来ていた彼に手を振ると、眩ゆい笑顔を見せてくれる。
「おはようさん、なずな」
「こうして2人で学校行くの、久しぶりだね」
「せやな。受験どないやった?」
「う〜ん。やれることはやり切ったとは思う……けど」
「そんなら大丈夫やって。なずな随分頑張っとったもん」くしゃくしゃと頭を撫でてくれる大きな手。
「あ、そうだ。今日は謙也君に渡したいモノがあるの」
謙也君の優しさに笑顔を返しながら、緊張を悟られないように切り出した。
「渡したいモノ?」
「えっと……、コレ」
「コレ……は?」
「チョコレート。ほら、今日ってバレンタインでしょ?だから、手作りしてみまし、たっ!?」
「おおきに、なずなっ!」
最後まで言い切らないうちに、謙也君にぎゅうっと抱きしめられてしまう。
「ちょ、謙也君、こ、ココ、人前……っ!」
抗議するも、謙也君には聞こえてないらしく、一向にその腕を離してはくれない。
謙也君が喜んでくれたなら、いっか。
恥ずかしくて仕方ないけれど、肩越しに見える謙也君が満面の笑みを浮かべていたから、大人しくされるがままになった。
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