どさあぁぁっ!
下足箱の蓋を開けた瞬間、中から雪崩のように色とりどりの袋や箱が地面に落ちた。
「すご……」
思わず声を漏らしたウチに対して、雪崩の洗礼を受けたひー君は頬を引き攣らせとる。
「はー……」
深々と溜息を吐いて、乱暴に床に散らばった箱らをかき集めだした。
「ひー君、コレ要る?」
「……おん」
たまたま持ち合わせとったエコバッグを差し出すと、一瞬手を止めて、顎でバッグの口を開けと言うてくる。
「ん、」
「おーきに」
抱えとったモンを一気にバッグに放り込むとウチの手からそれを取り上げて。
「日和。今日は部活後のおやつ、仕入れてこんでええで」
「なして?」
「コレら分けて片す」
「ええの?」
「匿名のモンにお返しなんてできひんやろ」
ひー君曰く、返す予定のないモンを律儀に消費する必要ない、とのこと。
「まぁ本人がええならええのかもしらんけど……」
女の子からは恨み買うんやないやろか。
ひー君の無頓着っぷりに少し心配になる。
「その方が自分も楽やろ。大喰らいの遠山の分、用意するん大変言うてたやん」
「まぁ……」
「ほな放課後、部活でな」
強制的に会話を打ち切って、ひー君は2年生の棟へ行ってしもた。
「はぁ……」
その背中を見送って、ひとつ溜息。
「コレは渡せへんなぁ……」
ひー君の人気っぷりは、四天宝寺に入ってから、嫌になるほど目の当たりにしてきた。
やから、こうなることも予想はしとった。
しとったけど、現実は想像よりも上を行った。
それに、ひー君のあの態度。
チョコレートの山に心底うんざりしとるようやった。
「後でウチが食うて処分しよかな」
去年までは、ひー君の人気をしらへんかったから、幼馴染みという立場を利用して、直接チョコレートをひー君ちまで持ってったりもしとった。
きっとあれらも迷惑やったんやろな。
直接渡しに行っとったせいか、受取拒否はされへんかったけど。
「あんまししつこいと嫌われてしまいかねへんし」
ただでさえ、ひー君にとってのウチは単なる幼馴染み。
せめてそこで留まっていたい。
作ったチョコは勿体ないけど、しゃーないわ。
そう内心で呟いて、ウチも1年の教室棟へ向かった。
***
そして放課後。
部活を終えて、いつも通りおやつの時間になると、ひー君は今朝の言葉通り、エコバッグの中身を開けて、部員らにおすそ分けしてた。
「財前、これ全部貰てええんっ!?」
「他の奴らと喧嘩にならへん程度ならな」
「おおきにっ!」
目を輝かせて、チョコの山に飛びつく金ちゃん。
あんた、クラスの女子から散々餌付けされてたやん!
今すぐツッコミたいけど、胃袋ブラックホールな金ちゃんに何言うても無駄やから心ん中に留めとく。
「あれ、ひー君まだバッグん中残っとるよ?」
呆れながら視線を逸らした先に、ウチが貸したエコバッグがあって、そん中から数は少ないながら、可愛らしい包装紙がいくつか顔を覗かせとる。
「あれらは贈り主がわかったやつやから」
さすがにちゃんと受け取らなあかんやろ。
そう言うたひー君に何や納得。
ちゃんとした相手には礼儀を返すっちゅうとこは、何ともひー君らしい。
「で、日和は?」
「へ?」
「チョコ。今年はくれんの?」
いつもとおんなし淡々とした口調で言われた言葉に、ウチは目を丸くした。
「ある……けど、」
まさか、ひー君の方から強請ってくるなんて。
「渡してもええん?」
「自分の割と楽しみにしとるんやけど?意外と美味いし」
「意外と、は余計や」
ちょっぴり不貞腐れながら、用意しとったチョコを渡すと、ひー君にくしゃくしゃと頭を撫でられた。
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