ざわざわ。

私立大学の入試も一段落し、今日は3年生全員が揃う最後の登校日。


明日以降は卒業式の予行と本番を除けば、登校する必要はないと学校から正式に認められている。
例外なのは、私みたいに国公立の一般入試に向けた対策講座を申し込んだ人だけだろう。

みんなも明日からこうして学校内で顔を合わせることがないとわかっているからか、今日はなんとなく朝から別れを惜しむかのように騒がしい。

「明日から寂しくなるなぁ。3−2テニス部、2人とも本命、推薦合格だもんね」
「せやなぁ」

かくいう私も、珍しくまだ来ていない蔵を待っている間、前の席に座る謙也君との別れを惜しむため、話を振るも、彼はどことなく浮ついてて、心ここにあらずと言った具合の返事をされる。

「……今朝、なずなちゃんといいことあったでしょ」
「なしてわかるんっ!?」

じとっとした視線を向けて、指摘すると顔を朱くして反応する謙也君。

「だって顔に書いてあるもん」
「嘘んっ!?」
「なんてね」

お決まりのボケツッコミみたいなノリに自然と声を出して笑う。

「で、何があったの?」
「これや、これ」

よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの表情で謙也君が見せてくれたのは、丁寧にラッピングが施された箱。

「何これ?」
「何って、決まっとるやん。チョコやチョコ!今日バレンタインやろ?」
「え゛、」

謙也君の一言で固まる私。

「もしかしてひな、忘れとった?」

若干引き攣った表情で彼が見せてくれたケータイ。
流れ星の待受の上にでかでかと表示されてる日付は紛れも無く2月14日で。

だからか。

みんながなんとなくざわざわしてることに納得すると同時に、私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。



***



「ごめんなさいっ!」

謙也君と話し終わって間もなく登校してきた蔵に、私は潔く頭を下げた。

「今日がバレンタインだって、すっかり忘れてましたっ!」

女子……、少なくとも、彼氏がいる女子にあるまじき発言。
しかも、去年ちゃんと今年はチョコあげるね、と約束までしてるのに。
因みに去年はチョコをあげずにサプライズパーティーしようとしたせいで、喧嘩になってしまった。
だから、バレンタイン忘れただなんて、蔵の逆鱗に触れてしまうのではないかと、びくびくしていたのだけれど。

「まぁ、しゃーないわ。最近ひな、勉強一生懸命やったもんな」

……あれ。
怒って……ない?

にこやかに怒りを爆発させられるのではないかとひやひやしてた分、なんだか拍子抜け。

まぁ、蔵って怒ると結構怖いから怒られないにこしたことはないんだけども。

「その代わり、ホワイトデーにはちゃんとお返しくれな?」

目をぱちくりさせてる私に苦笑を返して、蔵は何やら可愛らしい包みを渡してくれる。

「友香里に教えて貰たんや。初めて作ったから、ちょお自信ないけど……」

中をみれば、色とりどりのマカロン。

「頑張るのもええけど、たまには甘いモンでも食うて息抜きしいや?でないとひな、ぶっ倒れてまうで」

そっと額に添えられる蔵の大きな手。

「大変なんも後少しの辛抱や。ひなの受験終わったら、一杯2人で出掛けよな」
「うん」

一時はどうなることかと思ったけれど、改めて蔵の優しさを実感できるバレンタインデーになりました。




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