「お邪魔しまーす……」

小声で挨拶して翔太君に案内して貰った謙也君の部屋にあがる。

「なずな……?」
「ごめんなさい、起こしちゃった?」

火照らせた顔をこちらに向けた謙也君は、重い瞼を無理矢理開いてるようで。

「や、ちょっと前から起きとったで」

話す声も苦しそう。

「いいよっ、そのままでっ!」
それなのに、身体を起こそうとする謙也君は、案の定ふらついて。
慌ててその背を支えた。

「っ、なずなあかんて……」

だけど、謙也君は力の入ってない腕で私を押し退ける。

「あんま近づくと移ってまうし、それに……」
「それに?」

謙也君の風邪は私が移してしまったも同然だから気にする必要なんてない。

「俺、風呂入れてへんから……、その、汗、かいとるし、臭いとか……」

ごにょごにょと口篭る謙也君は、声のボリュームが下がるに連れて顔を背ける。

「そんなの風邪引いた時はお互い様でしょう?」

それに、謙也君の臭いなら気にならないし。

「せやけど……」

それでも恥ずかしそうに顔を伏せる謙也君。

実際、私には気になるほどの臭いはしないんだけどな……。

もしかしたら汗かいた気持ち悪さがあって、必要以上に気にしてるのかも。

だったら。

「いいこと思いついた!謙也君、ちょっと待ってて」

思案をめぐらせてひとつの可能性に行き着いた私は、早速次なる行動に移った。



***



「お待たせしました」

翔太君に手伝って貰って、お湯を満たした洗面器とタオルを用意して、謙也君の部屋に戻る。

「なん、それ?」

ベッドの背もたれに身体を預けた謙也君が首を傾げる。

「お風呂の代わりに、これで体拭いたら、多少はすっきりするかなと思って」

サイドテーブルに洗面器を置き、タオルを浸してそれを固く絞る。

「じゃあ謙也君、上着脱いで?」
「……は?」
「脱いでくれないと拭けないもの」
「いやいやっ、自分でできるからええって!」

そう言って全力で断る謙也君。

「でも、謙也君今腕に力入らないでしょう?背中とか拭ける?」

さっき私を押し退けた時も、手を振る今も、なんとなく動作が緩慢。
そのことを指摘すれば、「う゛」と言葉に詰まる。

「こないだお見舞いに来てくれたお礼に、せめて背中だけでも拭かせて?」
「……背中、だけ、やったら……」

上目遣いにお願いしてみると、謙也君は渋々ながら、後ろを向いて、パジャマのボタンを外し、広い背中を晒した。

「じゃあ拭いてくね」

まず首筋にタオルを当てて、そこから肩の方へと少し力を入れて拭いていく。
服着てる時はわからなかったけど、広い背中は意外と筋肉質。

テニスで鍛えてるから当然といえば当然なんだけど。

がっしりとした体格と硬い感触に、改めて謙也君が男の人なんだって実感する。

どきん。

あ、れ?

急に心臓が大きく跳ねると同時に、謙也君の背に触れてることが恥ずかしくなる。

「なずな?終わったん?」

手をとめたことを訝しんだのか、謙也君が顔だけこちらの方に向けて訊ねてくる。

「あ、うん」
「おおきに。ほな、後は自分でやるわ」
「お願い、します」

タオルを絞り直して謙也君に渡して、すぐに彼に背を向ける。

とりあえず、これからは迂闊にこういうことをするのはやめよう。

謙也君と背中合わせに座りながら、そう反省した。



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