「はぐれんよう、しっかり掴まっとってな」
「うん」
除夜の鐘が響く神社の境内は、年越しを待つ人々で賑わいをみせている。
気を抜けばすぐにでも、人波に攫われてしまいそうで、謙也君が差し出してくれた腕にしがみつく。
「今年も残り少しやな」
「うん」
お茶の間のテレビでは、既にゆく年くる年が始まってる時間。
謙也君が呟いた一言に、なんとなく切なさを感じて、晴れ着に合わせてセットした頭を、彼の肩にもたせ掛ける。
年が明ければ、本格的に始まる大学受験。
医大を目指す謙也君と志望学部が異なる私は、夢叶えても破れても、同じ道を歩めない。
このまま一緒にいられるのかな。
謙也君と付き合うようになってまだ数ヶ月しか経ってないのに、想いが離れてしまうことに不安が募ってしまう。
好きになればなるほど、この幸せが壊れてしまうのではないかと怖くなる。
「なずな。何難しい顔しとるん?」
鬱々とした気分が表情にあらわれていたらしく、謙也君が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「あ、ううん。何でもない」
「ほんまに?気分悪なったりしてへん?」
「うん。平気だよ」
笑顔を向けると、謙也君も柔らかく笑って、くしゃくしゃと頭を撫でてくれる。
「なぁなずな」
「はい」
撫でる手が止められて、顔をあげると、さっきとは打って変わって真剣な顔した謙也君。
「来年も俺の隣におってくれるやんな……?」
少し眉を下げた彼が口にしたのは、さっきまで私が思い悩んでいた事とまるで同じで。
「勿論!謙也君が許してくれるなら、いつまでも隣にいたいな」
一緒の気持ちでいてくれたことに嬉しさを感じながら、少し図々しいお願いをしてみると。
「ほんなら、おって。いつまでも」
真っ赤な顔した謙也君の唇が額に落ちた。
それは年が変わる5秒前。
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