駅前のモニュメント。
元々待ち合わせによう利用される場所やけど、今日はクリスマスイヴ当日ということもあって普段以上の混雑振りを見せとった。

なずなと付き合い初めて早2ヶ月と少し。
模試やら講習やらで中々纏まった時間がとれなかったため、2人で出かけるのは今日が初めて。
俺より1年早く彼女持ちになった白石から受けた「女の子を待たせたらアカンで」っちゅうアドバイスに従って、いつも時間ぎりぎりの俺が、今日は待ち合わせの1時間前からここにいる。
待ち時間が大嫌いな俺やけど、今日に限っては待つことが全然苦にならへんかった。

「謙也くんっ!」

きょろきょろと辺りを見回しとると、左側から愛しい声。
振り向けば、ぬいぐるみみたいな生地のコートに身を包んだなずなが大きく手を振っている。

「お待たせ、しましたっ」

パタパタと駆け寄る彼女の動きに合わせて、ふわりと踊る髪は、普段と違ってゆるく巻かれとって。

……アカン、めっちゃ可愛え。

思わずその姿に見惚れとると、目の前のなずなが不安げな表情を浮かべる。

「やっぱり、変……かな?」

巻いた髪を摘んで、眉を下げながら自分の姿を見回す彼女に、俺は勢いよく首を横に振った。

「ちゃうねんっ!変とかやなくて……、その、あんましにも可愛い過ぎるから、見惚れて、たんや……」

思った事をそのまま口にすれば、みるみるうちに真っ赤に染まるなずなの顔。
そんな彼女を見とった俺の顔にも熱が集まる。

尻窄まりになった言葉でも、きちんとなずなに届いたようで、彼女は色付いた頬を綻ばせて「ありがとう」と小さな声が聞こえた。

その笑顔に心臓が一段と大きく跳ねる。

ここが公衆の面前やなかったら、躊躇いなくなずなをぎゅっと抱き締めとったやろう。

「……ほな、行こか」

せやけど、公の場でそないなことができるはずもなく。
抱き締めたい衝動を押さえ込んで、代わりに手を差し出せば、遠慮がちに指先だけに触れてくる彼女の手。
指を絡めるように握って、俗に言う恋人繋ぎにかえると、掌から伝わる彼女の体温が少し高くなった気がした。

「……て、」
「ん?」

喧騒の中、耳が捕らえた微かな囁き。

「こうして、手繋いで歩くの、初めてだね」
「……おん」

ほんまは一緒に帰る時とかずっとこうしたいて思うてたんやけど、恥ずかしくてようできひんかった。

さっきの勢いに乗じてなんとか行動に移せたけど、改めて指摘されれば、やっぱし恥ずかしくて。
繋いだ手を解こうとしたけど、なずなが握る手にやんわりと力を込めるから、離れずそのまま。

「今日は、ずっと、こうしてて、欲しい、な」
「……おん」

色付いた顔でこちらを見上げるなずなに頷いて、彼女との距離を詰めると、2人分のドキドキで冬の寒さが掻き消えるくらい暖かかった。



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