「あ゛ー寒っ!」
「さっきから寒い寒い喧しいわ。その口塞ぐで」

クリスマスイヴの昼前。
ウチが並んどるんは開店前の甘味処。
因みに並んどる言うても、ウチの前に4、5人、後ろを見たってせいぜい5、6人っちゅう行列とは言えへん列。
そん中で若者っちゅう括りに入るんは、ウチとウチをココに連行して来た張本人で幼馴染みのひー君だけや。

「ひー君、今日何月何日か知っとる?」
「12月24日やろ」
「と言えば何の日?」
「クリスマスイヴやろ。俺んこと馬鹿にしてるんか、日和」
「別に馬鹿にはしてへんけどさぁ、何でクリスマスイヴにケーキ屋やなくて甘味処なんよ」
「期間限定でやっとる甘味バイキングのペア招待券が当たったから。文句あるなら帰ってもええで」
「う゛ー……」

ジロリとお得意の三白眼で睨まれたら、ウチには黙るしか手がない。

ひー君と口喧嘩したところでウチに勝ち目は全くあれへんし、何より今日はクリスマスイヴ。
喧嘩してひー君との関係を悪うしたない。

やって、ひー君にとってウチは単なる幼馴染み。
ほんまは、今日みたいな恋人同士のためにあるような日に2人きりで出掛けられることだけでも喜ばなあかんのやから。

「……はぁー……」

嫌な沈黙がウチとひー君の間を包む中、ひー君が深く息を吐いた。

また睨まれるんかな。

びくびくしながらそちらに顔を向けると、不意に首にあったかい空気が触れる。

「ソレ貸したるわ。また風邪引かれたら適わんから」

そっぽ向いたひー君の首に巻かれとったはずのマフラーは、いつの間にかウチの首元にあって。

さっきのあったかいのはこのマフラーやったんや。

無造作に巻かれたマフラーを整えて、口元まで隠すようにすれば、冷たい空気を遮る温もりと、ひー君の薫り。

「ついでに、」

ぶっきらぼうな優しさが嬉しくて、隠した頬を緩めとったら、ぐいっと肩を引かれる。

「もう少し距離詰めや。今度は俺が寒なるわ」
「……うん」

すっぽりとひー君の脇に収まると、2人分の温度が凍てつく空気を遮った。

さっきまでは早う開店時間にならんかなと思うてたウチやけど、このまま開店せんでもええかななんて思うてしまったんはココだけの話。




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