「お待たせしました」
「おおきに、ひな」

大阪に来て2度めの冬。
クリスマスも2度めだけれど、蔵と2人きりで過ごすのは初めて。

昨日作っておいたブッシュドノエルをテーブルに置くと、蔵は目を輝かせる。

「これも手作り?」
「そうだよ。去年みんなで食べたのを思い出しながら作ってみたんだけど……」
「めっちゃ美味そうや。頂きます」

蔵は丁寧に手を合わせて、切り分けたケーキにフォークを刺す。

「ん、美味い。ひなのケーキは最高や」
「ありがとう」

にこにことフォークを口に運ぶ蔵をみてるとこちらも嬉しくなる。
食べてくれる人に喜んで貰ってこそ、作った甲斐があるってものだ。

「こうしとると、ほんまに2人きりのクリスマスやなぁって実感するな」
「そうだね」

しみじみと述べる蔵に苦笑を返す。
去年はテニス部レギュラー全員がここに集まっていたものだから、それはもう大変賑やかだった。

「鍋は具の争奪戦になるし、金ちゃんは朝まで騒ぎたい言いよるし。2人きりになりたくてもなかなかなれへんかったもんな」
「けど、2人きりになったらなったで蔵が酔っちゃうんだもん」

普段の蔵とは比べものにならないくらい甘えたになって、色気も倍増して。

「ドキドキしすぎて死にそうだった」
「あ゛ー……、そんなことも……あった、な」

赤面して、すまん、と口篭る蔵に笑顔を返す。
確かにびっくりしたけれど、あれ以来より一層蔵に近づくことができたから。

「けど、もうあれから1年なんだね」

蔵の肩に頭を預けるように凭れかかると、蔵も私の肩に腕を回して抱き寄せる。

「色んなことがあったね」
「せやな」

金ちゃんという大型ルーキーの入部に、新しいマネージャーとして日和ちゃんが加わったり。
ベストメンバーで臨んだ全国。
惜しくも逃した優勝に涙したり。

本当に色んなことがあったけど、そのどれもがいい思い出だと言えるのは、きっと隣に蔵がいてくれたから。

「来年のクリスマスもこうして2人でいれたらいいな」

不意に浮かんだ願望を思わず口に出すと、蔵にぎゅっと抱きしめられた。

「当たり前や。来年もその先のクリスマスもずっと、ひなと俺は一緒やで」

耳元で囁かれた言葉に、心がほっこりとあったまる。

「……プロポーズみたい」
「みたい、やなくてそのつもりなんやけど」

少し不貞腐れたような口調になって、蔵はそっと身体を離す。

「まだ高校生やし、ひなを充分幸せにしたれるって保障もない。せやけど、俺が生涯かけて大切にしたいって思うんは、ひなだけやから」

真っ直ぐな蔵の言葉と真剣な眼差しに胸が熱くなる。

「クリスマスだけやない、来年もその先もずっと、どんな時も俺と一緒におって下さい」
「はい……」

そして真面目な顔した蔵に頷くと、流れるような仕種で左手をとられ、薬指に光るモノが嵌められた。
驚いてそれと蔵を交互に見つめると、蔵は「嫌になったら返却可やで」なんて言うものだから、私は必死に首を振る。

「嫌になんてなるはずないよ。これからもずっと傍に居させて」
「……おおきに」

私の方から蔵の胸に抱き着けば、すぐに逞しい腕が背中に回され、がっちりと抱きすくめられる。

そしてどちらかともなく見つめ合うと、少しずつ2人の間が縮まって、唇と唇が重なった。




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