なずなが学校を休んだ。
彼女とおんなじクラスの千歳に訊くと「風邪引いたらしい」との答え。
心配で仕方なくて、部活中もそわそわしとったら白石に「早よ見舞い行け」と文字通り背中を押された。
で、なずなの家までチャリンコぶっ飛ばして駆け付ければ、タイミングよくなずなのオカンが出かけるとこで。
「帰ってくるまでなずなについててやって」と部屋に通して貰って今に至る訳やけど。
なずな寝とるし……。
しかも熱が高いんやろか、少し寝息が荒っぽくて、普段よりも艶っぽい。
そのまま襲……って、病人相手に何考えてんねん、俺!
頭を思いっきし振って煩悩を払おうとするも、彼女の妙な色気と2人っきりっちゅうシチュエーションのタッグに後押しされた野性の本能が、必死にそれを押さえ付けようとする理性の蓋を吹き飛ばそうとしとる。
あかん、頑張るんや理性。
ここで負けたらなずなに嫌われてまう……!
自分に必死で言い聞かせながら理性で野性を押し込める。
…………よし。
葛藤が落ち着いたところで、ベッドに横たわるなずなに近付く。
うっすらと汗をかいた額に掌を当てれば、案の定めちゃくちゃ熱い。
なずなはこんなに苦しんどるのに。
さっきヘンなことを想像した自分を殴りたい。
「なずな……」
申し訳ない気持ちで一杯になりながら、彼女の名を呟くと、伏せられとったなずなの瞼が小さく震えた。
「け、んや君……?」
か細い声で俺の名前を呼ぶなずな。
高熱のせいやろか、ほんの少し潤んだ瞳に心拍数が多くなる。
「すまん、起こしてしもたな」
謝る俺に、彼女は首を横に振る。
「来てくれて、ありがとう。会いたかったから、嬉しい……」
「会いたかったて、俺に?」
照れ笑いを浮かべて頷くなずな。
「謙也君に会えないのが、なんかすごく淋しくて……。何回か、謙也君の夢もみてた気がする」
「変だよね、」と困ったように笑う彼女に、思わず抱きしめたい衝動に駈られる。
あーもう、なしてこないに可愛いことばっか言うてくれるねん。
やってそれって、付き合ってほんの少ししか経ってへんけど、なずながそれだけ俺を好きになってくれたっちゅうことやろ!?
ほんまなずなが病人やなかったら理性の箍外しとったとこやで!
「謙也君、引いちゃった……?」
ひとり感動に打ち震えとると、なずなに不安げな視線を向けられる。
「誰が引くかっ!寧ろ嬉しいっちゅうねんっ!」
俺の方こそ引かれてしまいかねん勢いで答えると、なずながくすっと笑った。
「よかった……」
「何やったら、なずなが淋しないように風邪治るまで毎日来たるで?」
「嬉しいけど、謙也君に風邪感染っちゃうよ……?」
「大丈夫やって、俺はテニスで鍛えとるから。もしもそれでも俺が風邪引いたら、そん時は……」
なずなが見舞いに来てや。
そしたらすぐに治るから。
冗談めかして言えばなずなは「勿論」と頷いた。
そのもしもが現実になって、なずなが俺んちを訪ねて来るんはまた別の話。
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