ことことこと。

ガスコンロの上で音を立てる土鍋。
中のお粥の煮え具合を確かめて火をとめる。

味見をしてから、茶碗と蓮華と一緒にお盆に乗せて、隣の部屋で休んどるひなの元へ運んだ。

「お粥作ってみたけど、食える?」
「ありがと……。わざわざ来て貰ってごめんね、蔵……」

背中にクッションを当てて、ベッドに腰掛けとるひなは、熱のせいで潤んどる眦を下げる。

「気にせんで。俺が押しかけたんやから」

久しぶりの休日。
デートの待ち合わせ場所に向かう途中で送られてきたひなからのメールをみれば、『ごめん、風邪引いた』というシンプルな文面。
慌てて彼女のマンションを訪ねると、そこにいたのは自室に伏せってるひなだけ。
お姉さんは昨日から出張中らしい。

せやからか、ひなに訊いたら案の定今日は全く食事をしとらんくて。

「3食きちんと食わんと、治るモンも治らんで?」

遠慮するひなをそう諭して、台所を借りて冒頭に戻るっちゅー話や。

「ほれ、あーん」

そして出来立てのお粥を蓮華で掬ってふぅふぅと冷まし、彼女に差し出すと、ただでさえ赤かった顔がさらに色付く。

「い、いいよ、蔵っ。自分で食べられるから……っ!」
「ええからええから。あーん」

照れるひなの主張を笑顔で退けると、彼女も俺に譲る気がないのを理解して、大人しく小さな口を開けた。

「ん、ええ子や」

ぱくんと蓮華を咥えた彼女はほんの少し咀嚼してから、微かに喉を鳴らして嚥下した。

「美味しい……」
「せやろ?何たってひなへの愛情がたっぷりと隠し味で入ってるからな」

目を瞬かせるひなに冗談を言えば、フフ、と可愛いらしい笑顔が返された。

「それじゃ隠し味とは言わないよ」
「ええやん、ほんまのことなんやから」
「もぅ……」

軽く口を尖らせたひなの頭を撫でてやる。

「もしも俺が風邪引いたらひなの愛情詰まったお粥食わせてな」

そして彼女の頭を撫でながらちゃっかりおねだりしてみると、ひなも笑顔で承諾してくれた。


そして、ひなが作ってくれたお粥を俺が食べられるんは、もう暫く後のこと。



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