「謙也君、コレ食べる?」
昼休み。
晴れてなずなと付き合いはじめてから、屋上で弁当食うんが習慣になった。
小さな弁当をつつくなずなと、購買のパンをがっつく俺。
それらを食い終わると、なずなが常備しとるおやつを2人で一緒に頬張る。
今日なずなが持ってきてたんは。
「ポッキー?」
それもオーソドックスなチョコのやつ。
いつもキャンディーとかグミやったから、珍しいラインアップに目を丸くすると、なずなは可愛いらしく指を立てて。
「ほら、今日11月11日じゃない」
「……あぁ」
言われて納得。
「ポッキー&プリッツの日」
「朝コンビニ寄った時に気づいて買ってみたの」
どうぞとなずなは開けた袋ごとポッキーを差し出す。
「ほな、いただきます」
ポッキー……。
ポッキー、なぁ……。
カップルでポッキーとくれば1度はやってみたいポッキーゲーム。
さらっと提案してさらっとなずなと初チューしたい。
『け、謙也君……』
『なん?』
『は、恥ずかしいよ……』
『えぇからそのまま』
――ちゅ。
なぁんてできたら、なぁ。
「謙也君?」
「うぉっ!?」
そんな妄想しとったら至近距離になずなのどアップが。
「顔赤いけど、大丈夫?」
「え、あ、だ、大丈夫やっ!」
丸々とした瞳に見つめられて加速する心臓。
やましいこと想像しとった分、心拍数の増加がハンパない。
あかんあかん!
平常心平常心!
「ねぇねぇ謙也君」
せやけど、必死に鼓動を抑えようとしとる俺を知ってか知らずか、なずながにこにこと笑顔を振り撒く。
「ポッキーの正しい食べ方って知ってる?」
「正しい食べ方?」
なんやそれ。
そんなんあったか、と首を傾げる俺の前で「じゃあみてて」となずなが実演に入る。
ポキポキポキポキ
ポーキポーキポーキポーキ
ポキポキポキポキ
ポーキポーキポーキポーキ
「いやいやいや!それ、違う商品やからっ!」
なんやろ、と思て見とったら、至極真面目な顔をして、なずなが某ポテトスナックのCMの真似をはじめるもんやから、思わずつっこんでしもた。
「ナイスツッコミ!さすが謙也君」
「ってボケとったんかいっ!」
ぐっと親指を立てながら声をあげて笑うなずな。
あまりにも真面目な顔しとるから、本気で言うてるかと思うたわ。
そう言うと、彼女はしたり顔で更に笑った。
「ちゅうかポッキーの食べ方に正しいも何も、」
ない、という2文字が口から飛び出す寸前、俺はあることを思いついた。
「いや、ひとつあったわ」
「へ?」
「ポッキーの正しい食べ方」
「え、あるの!?」
「おん。……知りたい?」
「うん」
興味津々に頷くなずな。
多分今から俺がやろうとしとりことをわかってへんのがまるわかりや。
ちょっぴり罪悪感を感じながらも、ポッキーを1本取り出して、なずなにあーんと咥えさせる。
そしてすかさず反対側を自分の口に含むと、さすがのなずなも俺の意図を悟ったんか、頬を紅潮させた。
「け、謙也君……。こ、これって……」
「ポッキーゲームや。嫌やったら折って逃げてくれてええから」
潤んだ瞳に欲望が募る。
一口、二口とポッキーを食べ進めると確実に縮まる2人の間隔。
あと3回、2回、1……。
ゼロ。
ポキ、と最後のひと欠片を砕くと同時に触れ合う口唇。
数秒重ねてから顔を離すと、林檎みたいに頬を染めてこちらを見上げるなずなと目が合うた。
「……真っ赤やな」
「謙也君も……」
なずなの瞳に映る俺は彼女と同じくらい赤い顔をしとった。
- 3 -
[
≪|≫]