「なぁなぁひな」

制服からジャージに着替え終えて、朝練が始まる前の部室に顔をだせば、にっこり、という擬音が聞こえてきそうなほどの笑顔で近づいてくる蔵。

「な、何?」

何でだろう、その綺麗すぎる笑顔に嫌な予感しかしないのは。
思わず身構えるけれど、蔵はそんな私にお構いなく言葉を続ける。

「ポッキーとプリッツやったらどっちが好き?」
「えと……、ポッキーかな」
「普通のチョコとイチゴやったら?」
「い、イチゴ……」

脈絡のない質問に戸惑いながらも答えていくと、蔵が自分の鞄からイチゴポッキーの箱を取り出した。

「ほな、これ食べよ」

ちらっとみえた蔵の鞄の中にはその他ノーマルポッキーやプリッツサラダ味などのお菓子の箱が数個あった。

普段お菓子なんて持ち歩いてないのにどうしたんだろ。

「やって今日ポッキー&プリッツの日やんか」
「あぁ」

蔵に言われて部室のカレンダーをみれば今日は11月11日。

「せやから今日のおやつ、ポッキーとプリッツにしよかと思て」

なるほど。

さすが蔵。気が利くなぁと感心していると、「それに少しやってみたいこともあんねん」と今度はにやりと笑う。

「何?」

私の問い掛けには答えずに、蔵はおもむろにイチゴポッキーのパッケージを破る。
そしてその中から1本を取り出して。

「はい、あーん」

差し出されたポッキーの端を私が何も考えずに咥えると同時に、蔵も反対の端をぱくりと咥えた。

「!!?」

ちょ、これってまさか……!

「そ。ポッキーゲームや。口、離したらおしおきやで?」

さらっと恐ろしいことを宣う蔵に、大人しく従えば、パキ、ポキと徐々に短くなる2人の距離。

「――っ!」

最後のひと欠片を飲み込むと同時に重なる口唇。

いつもより少し長めのキスはイチゴチョコの味がした。

「ごちそーさん。美味かったで」
「も、もうっ知らないっ!」

至極満足げに笑う蔵にドキドキしてしまう私は、きっとこの先も彼に敵うことはないと実感してしまった朝のひととき。



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