めぐりあひ


「失礼しました」

春休み。
新学期から転入することになった四天宝寺中に、書類を提出するために訪れていた。

「ふぅ……、緊張したぁ」

校長のムアンギ先生が威厳よりもユーモアに溢れてる人だったから、まだ助かったけれど。

「4月からは大阪かぁ」

私の父は、いわゆる転勤族というヤツで、ひとところに3年いられればマシな方。
小学校も3回かわった。

今回は、その父が海外転勤になり、母もそれに付き添うことになったため、私だけ母方の祖父母がいる大阪に引っ越すことになった。

「懐かしいなぁ」

大阪は、私が物心ついてから、小学校に上がる直前まで住んでいたところ。

懐かしいと口にするほど、この広い街を知っていた訳ではないし、実際は初めて訪れる街と変わらないくらい何も知らないけれど、それでも、今までの引っ越し先よりは、安心感がある。

「前住んでたとこにあった公園、残ってるかな……?」

私の記憶にある大阪は、小さなアパートの、傍にあった簡素な公園。

近所の同い年くらいのコたちが集まって、遊具で遊んだり、砂遊びしたり。
ままごとや鬼ごっこもしてたっけ。

『おれが おおきゅうなったら、ぜったい しーちゃんのこと、むかえにいったる』

ふと脳裏に浮かぶ言葉。
あれは確か、私にとって初めての引っ越しが決まった日。
1番仲が良かった男の子に、泣きながらその事を伝えたら、泣きそうな顔をした彼が言ってくれた言葉。

今まではすっかり忘れてたのに。

大阪に来たからだろうか。
まるで、数日前の出来事のように、鮮やかに蘇る。

そういえば、私にそう言ってくれたコのこと、好きだったな。

元気一杯で、いつも私を引っ張っていってくれた彼。
太陽みたいな笑顔を、ぼんやりとだけど覚えてる。

あのコもまだココにいるんだろうか。

「えっと、確か名前は……」

どんっ!

考え事をしながら歩いていたが故の不注意。
角を曲がろうとした瞬間、誰かにぶつかって転んでしまった。

「すまん、大丈夫かっ?」
「こちらこそ、すみません。ぼんやりしてて……」

差し延べられた手をとると、優しく引いて立たせてくれる。

「ありがとうございまし、た……?」

お礼を言って、助けてくれた人の顔をみると、記憶の中の男の子が重なる。

髪は金色だけど。
随分大人っぽい顔してるけど。

目の前の彼は、仲の良かったあのコに似てる。

確か、あのコの名前は。

「けんや、君……?」

記憶の海から釣り上げた名前を口にすれば、金髪の彼の目が大きく見開かれて。

「しーちゃん……か?」

昔のままの呼び方。

まさか、彼が私のこと覚えててくれてたなんて。

とくん。

心の奥で何かが音を立てる。

「な、」
「くぉら、謙也ーっ!」

彼が口を開いた瞬間、私の背中側から怒声が響く。

「げ、ハラテツ部長」
「何ボサボサしてんねんっ!あと10秒以内にコート戻らんと、自分だけランニング5周追加したるでっ!」
「ちょ、それは堪忍!」

じゅうー、きゅー、と良く響くカウントダウンに、慌てて駆け出すけんや君。

「あ、」

声を掛ける間もなく、彼は風のように走り去ってしまった。

「行っちゃった……」

彼の姿が見えなくなると同時に、うきうきしてた気分が落ち込む。

もっと話したかったのに、残念だな。

「でも、ま、いっか」

4月からは私もここに通うんだから。
彼と会える機会だって増えるだろう。

その時にはきっと、心の音の意味もわかるはず。

ここを訪れた時とは別のドキドキを胸に、私は四天宝寺中を後にした。



めぐりあひて
みしやそれとも わかぬまに
くもがくれにし やはのつきかな




(蘇る恋心)
(花開くのはまだ暫く先)



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