みかのはら
駅前の繁華街にある小洒落たレストランの前。
腕の時計が指し示すのは11:15amというデジタルな数字。
あと15分か。
今日はとあるオンラインゲームのオフ会。
いつも一緒に討伐に出掛けてるメンバーと、初めてリアルで顔を合わせる日。
リーダーさんの知り合いが開いているというこのお店。
今日はその人の好意で貸切だときいているから、このあたりに集まってるメンツの多くは、きっとみんなあのパーティーのメンバーなんだろう。
見渡す中にいるのは性別も年齢もまちまちな人たち。
事情を知らない人からみたら、何の共通点もないように見えるんだろうな。
どこまでが関係者かわからないので、時間が来るまでみんな様子見しているのだろう。
誰も話しかけたりしてる人はいない。
当然私もその中のひとりではあるけれど。
まだいない、かな?
たったひとり、おそらく見ればすぐにその人だと特定できる人がいる。
このパーティーの中で最も親しい、HNしらたまさん。
私としらたまさんが扱う武器の相性がたまたまよくて、初討伐の時にペアを組んで以来の仲。
個別チャットで話してみたら、どうやら同年代らしく、息もあったので、小規模なイベントも2人で挑むようになった−−
多分、高校生くらいの男の子。
それがチャットやパーティー内での話し方から想定したしらたまさんの正体。
どんな人だろう。
見たことない彼(と勝手に決めつけてるけど、おそらくあってる)に膨らむ期待。
ゲーム内ではだいぶ仲良くなれたから、リアルでも友達になれたらいいな。
わくわくしながら辺りを見回していると、駅の方から歩いてくる同い年くらいの少年。
しらたまさんだ。
直感的にそう思った。
「あのっ、」
地図アプリでも見てるのだろうか、俯いてスマホを触りながら歩く彼に直撃した。
「しらたまさん、ですよね?」
スマホ画面からこちらに向いた顔には怪訝な表情が浮かんでいたけど、HNを呼ぶと、彼は目を何回かしばたたかせて。
「ウタ、さん?」
「はいっ!」
私のHNを呼びかけてくれた。
「あ、本名は菅野詩歌っていいます」
「俺は財前光」
「あの、よければこっちでも友達になって貰えませんか?」
リアルでも会えたことが嬉しくて思わずスマホを出して、連絡先を訊こうとすると。
「……新手のナンパ?」
「えっ、あ、」
不審げに眉間に皺を寄せるしらたまさんもとい財前君。
「す、すみませんっ」
確かにいきなり連絡先きくなんて礼儀知らずにも程がある。
「なんてな。冗談や」
慌てて頭を下げると、頭上の方で喉の奥から笑う声。
「ウタさん……いや菅野さんか。ゲーム内もリアルも性格変わらへんのな」
「……しら、じゃなかった、財前君はゲーム内に比べると意地悪ですね」
「ならやめとく? リア友なんの」
「やめたく……は、ない、です」
だってずっとこうしてリアルでも話してみたかった。
バーチャルじゃない世界での彼をもっと知りたい。
その気持ちは今も変わらないから。
「ん、」
「へ?」
「交換するんやろ、連絡先」
「……いいんですか?」
「アンタならええですわ」
ぶっきらぼうに答える様はゲーム内で話してる時と同じ。
だけど。
あ、こういう時って照れてるんだ。
ふいっと背けられた横顔が僅かに赤かったのは、私の胸の内だけに留めておこう。
みかのはら
わきてながるる いづみがわ
いつみきとてか こひしかるらん
(もっともっと、キミを知りたい)
-9-
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