くだけても


私と謙也は俗にいう幼馴染。
家が近所な関係で、幼稚園から中学までずっと一緒。
そして初めて自分で進路を決められる高校だって一緒になった。

「詩歌! んなとろとろ歩いとったら遅刻すんで!」
「え、嘘!?」
「ホンマや」
「ごめん謙也、後ろ乗せてっ!」
「しゃーないなぁ」

と、こんな具合で謙也の自転車に2人乗りさせて貰うのも。

「ま、間に合った……っ!」
「おー、今日も相変わらず綱渡りやな」

チャイム鳴る寸前に2人で教室に駆け込んで、白石から呆れと賞賛が混じったような視線を向けられるのも。

「坂道2人乗り、キッツいわ……! 詩歌、太ったんちゃう?」
「んなわけないでしょっ! 公衆の面前で失礼なこと言うなっ!」

と、私が謙也の頭をはたいたり。

「忍足、菅野。どつき夫婦漫才はええから早よ席つけー」
「「夫婦やないわっ」」

担任のかっちゃんのお決まりのボケに2人でツッコむのも、全部日常茶飯事になっていて。

だから。
きっとこれから先も、ずっと私の隣には謙也がいてくれるのだと思っていた。
少し夢見がちに言えば、謙也こそ、運命の人なのだと信じていた。



今日この瞬間までは。



お互い選手とマネージャーで、帰る方向が同じだから、部活ある日はほぼ毎日一緒に帰る。
けど、今日はオフの月曜日。
普段だったらお互いクラスメイトや仲のいい友達と遊んで帰る日。
なのに今日は珍しく謙也から、一緒に帰らん? と誘われて。
それをみてたクラスメイトにお熱いなー、などと冷やかされ。
私も内心期待して。

「え……、」

だけど謙也の口から出たのは、私じゃなくて親友の名前。
無邪気で庇護欲を掻き立てられるような、謙也のタイプどんぴしゃなコ。

「やーかーらっ、あのコって好きな人おんのかって訊いたんや」

派手な金髪を掻きながら、少し怒った口調で訊ねてくる謙也の顔は真っ赤で。
言葉よりも雄弁に語っていた。
あのコが好きなんだ、と。

対する私は、想定外すぎる展開にさぁと答えるのが精一杯。

「さよかぁ」

どーしよかな、このままいっそ玉砕覚悟で……。

などと悶々と悩む姿は、まさしく恋する乙女ならぬ恋する男子。

……こんな謙也みたことないや。

それだけ好きなんだね、あのコのことが。
だとしたら、“幼馴染”の私が言うべき言葉は。

「しょーがないな、そんなに悩んでるんなら協力してあげるよ」
「ホンマかっ!?」

精一杯の作り笑顔で言うと、謙也は、やっぱ持つべきものは幼馴染やで、と浮かれ顔。

「まあ、私が協力するからって成功する訳じゃないからね。精々あのコに好かれる努力しなよ」

こっちの内心に一切気づかない謙也に、嫌味混じりな台詞を吐いたところで、いつもの別れ道。

「言われんでもわーってるわっ!」

真っ赤な顔のまま、また明日な、と手を振る謙也に、片手をあげて背を向ける。
溢れそうな涙を気づかれないように。



かぜをいたみ
いわうつなみの おのれのみ
くだけてものを おもふころかな




(“幼馴染”じゃなければ、素直に好きって言えたのに)



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