しのぶれど


肌寒さを感じ始める季節。
色づきはじめた木々が彩りを添える校庭で、ジャージ姿の女子たちがサッカーボールを追いかけている。

あ。

ビブスをつけてボールを追っていた隣のクラスの菅野さん。
見事ボールをスカってずっこけた。

大丈夫やろか。

心配になって思わず腰を浮かそうとした瞬間。

「白石ー、」
「は、はいっ」

英語担当の教師からの突然の指名。

「教科書156ページの9行目から訳せー」
「はいっ、」

一応予習しておいたおかげでなんとか難は逃れたけれど。



***



「てなことがあってんねん」
「へぇ、珍しいな。白石が授業中ボーッとしとるなんて」
「っスね。謙也さんならともかく」

放課後の部室。
英語の授業中の出来事を暴露してくれた謙也のおかげで、結構な騒ぎになっている。

「もしかしてグラウンドに好いとうコでもおったと?」
「なぬっ!?」

才気煥発の持ち主侮りがたし。
千歳の余計な一言で、まるで女子のような盛り上がりに。

「蔵リンのクラスが英語の時間ってことは……、体育やっとんのは3、5、7組やね」

I.Q200の天才の更なる一言で、レギュラー陣は誰や彼やと思い当たる女子の名前を挙げてくる。

幸いこいつらが挙げた中に正解はなかったけれど。

「だぁー、もうええ加減にしぃや。無駄話は後や後! 今日は外周倍やで!」

職権濫用だ、などと批判があがるがそんなん無視。
早く行けと部室の外に追い出した−−のだが。

「なぁ」
「なんや小春?」
「蔵リンの好きなコって3組の菅野詩歌さんやろ?」

すれ違いざま、どんぴしゃの耳うち。

「アタリやね。あのコ密かに人気あるんよー。早よせんと誰かにとられてまうで?」

……I.Q200、恐るべし。



しのぶれど
いろにいでにけり わがこひは
ものやおもふと ひとのとふまで




(……変なウワサがたつ前に自分で伝えたほうがええかもしれんな)



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