かぜそよぐ


近隣の県にある巨大な海水プール。
夏休み最後の休日ということもあってか見渡す限りの人、人、人。

小中高生は宿題に追われておらんやろうという俺の見通しは、どうやらかなり甘かったらしい。

「そりゃそうやろ。俺なんか宿題なんかそっちのけで遊んどったし」
「で、大抵俺が2学期の始業式の日に、自分の早朝登校に付き合わされて、写させたるハメになっとったよな」

というのは、アホの謙也さんとお人好しにも程があるやろっちゅう白石部長の会話。

「つか財前、今年はどないしたん?毎年毎年俺らが誘っても来ぃひんかったんに」
「……よう言いますわ。アンタらが詩歌を焚きつけたクセに」

ふと思いついたように疑問を口にする謙也さん。
サークル内で、この2人が詩歌の前でプールの話を出してからというもの、事あるごとにねだられた日々を思い出し、返す言葉に、思わず溜息が混じる。

「さすがの財前も、カノジョには弱いんやな」
「……別に、」
「とか何とか言うて、詩歌ちゃんの水着姿を拝みたかっただけとちゃう?」
「初カノに舞い上がっとる謙也さんと一緒にせんといて下さい」
「何やとーっ!」
「蔵、みんなー、お待たせー」

俺らが軽口を叩きあっていると、部長のカノジョが駆け寄ってきた。

「意外と早かったやん……って、あとの2人は?」
「それが……、詩歌ちゃんが……」

白石部長の隣から困ったような視線を向けられる。

詩歌に何かあったんやろうか。

「ほら詩歌ちゃん、早よ早よ」
「あの、でも、まだ覚悟が」

そんな心配を抱いていると、謙也さんのカノジョに急かされとるらしい詩歌の声。

「つべこべ言うてへんと、ほらっ!」
「きゃあっ!?」

背中を押され、よろけるようにして現れた詩歌の姿に、目を奪われた。

チェック柄のビキニに、惜しみ無く晒された白い肌。

「ね、めっちゃかわええでしょっ!」

詩歌の水着を一緒に選んだと言っていた先輩らが誇らしげな顔をすれば、部長も謙也さんも「おぉー」と、感嘆の声を挙げた。

……あぁ、もう。

注目され、顔を赤らめとる詩歌に、音もなく近づく。

「財前、君?」

上目遣いに潤んだ瞳をこちらに向ける詩歌。
無言でその手を引っ張って、プールん中へ強制連行。

「あ、あの財前君っ、急にどう……っ!」

焦る詩歌を水の中で抱きしめる。
彼女にとっては予想外の行動だったらしく、言葉が途切れた。

「……詩歌のアホ。そーいうカッコは2人きりん時だけでえぇねん」
「えと、それは……」

少し身体を離すと、冷たい水の中にいるハズなのに、さっきよりも朱くなった詩歌と目が合う。

「……めっちゃ似合うてるっちゅうことや」

真っ直ぐな視線を受け止めたまま、素直に褒めるんは気恥ずかしくて。
もう1度彼女を抱きしめて、耳元で囁けば、腕の中の詩歌は、嬉しそうに笑った。



かぜそよぐ
ならのをがわの ゆふぐれは
みそぎぞなつの しるしなりける




(2人の夏は、まだ終わらない)



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