たまのをよ


※白石が変態です。苦手な方はブラウザバックでお戻りください。





「詩歌……、詩歌……っ」

暗闇の中、呪文のように唱える彼女の名前。
口にする度、身体の奥から切なさが込み上げてくる。

彼女と初めて会うたのは、ほんのひと月ほど前。

『菅野詩歌です』

そう名乗って微笑む彼女と目が合った瞬間、恋におちた。

『白石さん、』

鈴を転がしたような声が、俺を呼ぶ度、想いは募って。

『こんにちは』

不意に遭遇すれば、心が弾んだ。

他の誰かとは比べものにならないくらい愛しくて。
なのに決して手に入れられない存在。


やって彼女は出会った時には既に謙也の恋人やったから。


好きになったらアカンって分かってたのに。
報われんことも知ってたんに。

忘れようとすればするほど、想いは溢れて。
そして、届かないことを理解していたからこそ、醜く歪んだ。


謙也から無理矢理にでも奪い取ってやりたい、と。



「詩歌……っ!」

声を殺して彼女の名前を叫ぶと同時に、身体の中に溜まっとった切なさを全て吐き出す。

許されない想いやと解っているのに。
心の制御が全然きかへん。

「詩歌……」

純粋な彼女が、こんな俺を知ったらきっと軽蔑するやろう。

「…………ごめん、な……」

行き場のない想いと、相手のいない謝罪。

独りきりの部屋に、熱を帯びた吐息だけが木霊した。



たまのをよ
たえなばたえね ながらへば
しのぶることの よわりもぞする




(この想いが君を傷つけてしまう、その前に)
(どうか、殺して下さい)



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