かくとだに


人というのは厄介な生き物だと、つくづく思う。
自分の心の内を知られたくないと考える一方、その秘めた想いに気づいて欲しいと、相反することを願う。

特に色恋沙汰に関しては。



「詩歌!」

かく言う私も、そんな矛盾を抱えたひとり。
そして、今日もまた、私を悩ませるアイツの声が、名前を呼ぶ。

「何、謙也?」

鞄に用具を詰めて、帰宅準備を整えていると、満面の笑みを浮かべた金髪が、廊下の窓から身を乗り出してきた。

「今日さ、オサムちゃんの都合で部活オフになってん。で、みんなでカラオケ行こうっちゅう話になったんやけど、詩歌もどや?」
「行く!」
「よっしゃ、ほな自転車置場で待っとって」
「うん」

こういうふうに、謙也は何かにつけて、私を誘ってくれる。

休日には2人っきりで映画を観に行ったり、買物したりすることも、珍しくない。

親しい友人達からは、これで付き合ってないってことが信じられないと、何度言われたかわからない。
それくらいに、私と謙也は仲がいい。

「お待たせ、詩歌。後ろ、乗り」
「うん」

自転車に跨がった謙也は、自分の背中側を親指でくいっと指して、爽やかに笑う。

そういえば、謙也と2人乗りするのって初めてだ。

そんなことを思いながら、バーに足をかける。
思ってた以上に広い背中のどこに手を置こうか迷った挙げ句、謙也のシャツをきゅっと掴むことにすれば。

「飛ばしてくから、もうちょいしっかり掴まっとき」

衒いなく言われ、仕方なく肩越しに腕を回し、彼の背中にぴったりとくっつく体勢になった。

ふわり。
謙也の匂いが鼻腔を擽る。

それが引き金になって、心音が加速する。

あわわわわ……!
これじゃ、謙也にバレちゃう……っ!

密着した状態にひとり焦っていると、くすりと微かに笑う声。

「詩歌、」
「はいっ、」
「めっちゃ心臓バクバク言うてる」
「こ、これはっ、」

からかうような口調に、必死で言い訳を探す。
こんな形で謙也に想いが伝わるのは嫌だったから。

けれど。

「そないに怖がらんでも、振り落としたりせえへんって」

……あれ?

カラカラと笑う謙也に、体の力が一気に抜けそうになった。
どうやら、私が2人乗りを怖れて、緊張してると思ったらしい。

「何や、後ろに乗るんが怖いんとちゃうん?」
「当たり前でしょっ、子供じゃないんだからっ!」
「わ、ちょ、手離すなやっ」

ポカスカと謙也の頭を殴ると、当然のことながら、抗議の声。

「ちゅうか、怖いんやなかったら、なしてそないに緊張するん?」

頭を押さえて、本気で首を傾げる謙也。

……鈍感もここまでくると、怒りを通り越して呆れてしまう。

「今の謙也には、ぜっったい教えてあげないっ!」



かくとだに
えやはいぶきの さしもぐさ
さしもしらじな もゆるおもひを




(この秘めた想いに気づいて貰えるのは、まだ暫く先のお話)



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