たきのおと


警笛が鳴り響く新幹線のホーム。
入って来た列車から、ずらずらと湧き出てくる人の波。

「あ、千里ーっ!」

その中でも取り分け目立つ長身を見つけ、跳ねながら叫ぶと、人混みの隙間から、ほんの一瞬彼と目が合った。

「詩歌、迎えに来てくれたと?」
「うんっ、千里に早く逢いたかったから」

人の波を掻き分けて、目の前に現れた千里に、思うままを伝えると、彼の口元が柔らかく綻んだ。
一緒に歩いていると、どうしても1歩ずつ遅れていく私に、手を差し延べてくれる。

「白石たちは?」
「もう着いてるらしいよ。さっきメールあった」

ポケットから出したケータイに受信メールの内容を千里にみせる。

「ん、何ねこれ?『菅野は彼女として何が何でも千歳を連行するように』……って、俺そげん信用なかと?」
「そりゃあ中学ん時サボり魔だったし。約束のドタキャンだって多かったじゃない」
「……さすがに20歳過ぎた今はそげんことはせんばい」
「でも、こないだ私とのデート、すっぽかしかけたでしょ」
「う゛……、あん時はホントに悪かったばい」

少し意地悪を言うと、千里はその長身をしゅんと丸めて、申し訳なさそうな顔をする。

「なんてね。もう怒ってないからいいよ」

そう付け足せば、ほっとしたように微笑む千里。
私は千里のこの表情が1番好きだ。

そんなやり取りをしてる内に、目的地に辿り着く。

「懐かしか」
「だね」

寺門とよく似た正門。
それをくぐって向かうのは、5年前、私たちが必死に駆け回っていたテニスコート。

「お、来たな」
「菅野、千歳、久し振り」

中に入れば、こちらに気づいて手を挙げる白石や謙也といった懐かしの面々と。

「この子たちは?」

黄色とグリーンのユニホームに身を包み、綺麗に整列してる中学生。

「オサムちゃんの現教え子らしいわ。俺らにテニス教えて欲しいんやって」
「「は??」」

苦笑を浮かべる謙也に対し、頭上に疑問符を並べる私と千里。

「お前ら世代は伝説になってんねん」

それに答えてくれたのは、渋さの増したオサムちゃん。

「全員テニス続けとるんやろ?憧れのOBに指導して貰いたいっちゅう後輩の願い、叶えてやってや」
「とか何とか言うて、監督が楽したいだけなんちゃいます?」
「ハッハーっ、ソナイナコトナイデ?」

相変わらず口の減らない財前の言葉に、オサムちゃんはあからさまに目を泳がせる。
その様子に私も千里も肩を竦めた。

「……しゃーない、後輩の為に一肌脱ぎますか」

同じく肩を竦めてた白石がそう言うと、他のメンバーもそれに従う。

「しかたなかね」
「千里もやるなら、私も昔に戻ってみんなのサポートしようかな」



それから数分後。
跳ねるボールの音と、みんなの声。

5年前まで、当たり前だった毎日に還ったみたいだった。



たきのおとは
たえてひさしく なりぬれど
なこそながれて なほきこえけれ




(何だか昔に戻ったみたいで楽しかったね、千里)
(…………)
(千里? 千里さーん?)
(俺はつまらんかったたい)
(何で?)
(……詩歌がみんなの世話焼くから)
(千里、東京帰るのいつだっけ?)
(明日ばい)
(じゃあ明日まで千里だけを構ってあげりから、機嫌直して、ね?)
(……詩歌には敵わんとね)



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