ゆらのとを


昼休み。
学校におる中で、1番好きやっちゅうヤツが多い時間やが、俺にとっては、1番いらつく時間。

「こーはるちゃんっ!」
「あらぁ詩歌ちゃん。いらっしゃい」

今日もまた俺を苛立たせる原因が、勢いよく生徒会室の扉を開けた。

「お昼一緒にいい?」
「勿論よ」
「やたーっ!」
「おい」

小春の隣で諸手をあげるソイツに鋭い視線を向ける。

「あら一氏。いたの?」
「初めからここ座っとったやろがっ!大体、前から言うてるやろっ!俺と小春のランチタイム邪魔すなって!」
「だったら、小春ちゃんと一緒に教室戻ればいいでしょ、この部外者」
「口の減らんやっちゃな……!小春、こないなヤツに構っとらんで、教室に、」
「誰が行くか、ボケェっ!」
「そんな、小春ぅ」

小春と2人きりやった昼休みにコイツが乱入するようになってから、小春は前に比べて冷たなった。

「ざまぁないわね、部外者」
「さっきから部外者、部外者て喧しわっ!そういう自分はなんやねんっ!」
「私?」

失意に沈む俺を鼻で笑う菅野に、反撃を試みるも。

「菅野詩歌、四天宝寺の生徒会長様だけど?」
「くっ……」

にっこりと勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべる菅野に返り討ち。

言い返す言葉が見つからん。

「まぁまぁ詩歌ちゃん。それくらいにしたってぇな」

うちひしがれる俺に、救いの手を差し延べてくれたんは、女神・小春。

「ユウ君が再起不能になってまうわ」
「小春ちゃんが言うんなら。おまけで、一氏もこっち来る?」

……ホンマ小春の言うことには素直に従うな。

掌を返したように、軽やかな笑顔で手招く菅野。

「ついでだから、一氏にもおすそ分け」

んでもって、多分はじめから3つ用意してあったんやろうデザートを俺の前に置く。

「今日は杏仁豆腐?ぷるんとした触感がたまらんわぁ」

そのデザートに真っ先に手をつけた小春が感想を言う。

……ホンマや。触感も味もえぇ。

「ホント?ゼラチンじゃなくて寒天使ってみた甲斐あったかな」
「これ詩歌ちゃんの手作りなん?」
「まぁね」
「流石やわぁ。ほら、ユウ君」
「んあ?」
「んあ、やのうて、杏仁豆腐の感想。ユウ君やって貰てるんやから」
「……まだまだ、だね」

素直に美味いと言うんは癪にさわるから、東の生意気ルーキーの口真似をしたった。


俺にとっての菅野は、小春との間に割り込む邪魔物で、菅野にとっての俺は、小春のオマケ。
それが俺らの関係で。
それでえぇと思ってた。


はずなんに。



***



「はろーっ!こは、」

いつもと同じ昼休み。
毎度のことながら、スパンっと小気味いい音を立てて開いた扉。
そこから顔を覗かせる菅野。
違うのは、ハイテンションな彼女の声が、中途半端に途切れたこと。

「……小春ちゃんは?」
「謙也に拉致られた」
「あぁ。校内放送か」

人気だもんね、小春ちゃんの恋愛相談室、と言って、菅野はいつも通り、俺の斜交いに腰掛ける。

「一氏はどうしてここに?」
「俺がおったらあかんのか」
「や、いつも小春ちゃんにべったりだから。着いていかなかったんだって思って」
「やって俺が行ってもなんもできんし」
「教室で食べようとは思わなかったの?」
「あ……」

言われてみれば、確かに。
そないなこと、考えもせんかった。

「あれや、体に染み付いた習慣や」
「ふぅん?」

思いつかなかった理由を答えれば、やたらにやける菅野。

「なんやねん、きっしょい」
「別に?てか、女子相手にきしょいとか言わないでよ」

キっとこちらに向けられたきつい眼差し。
せやけど、それは数秒も保たずに、だらしなく垂れ下がる。

「せやから何やねん」
「一氏は楽しい?」
「は?」

質問に返された質問に、疑問符を投げ掛けると、彼女は僅かに口を尖らせて。

「だから、今私といて、楽しいかって訊いてるのっ!」

楽しいか楽しくないか。

小春とおる時に比べたら、楽しくはない。
せやけど、部活で騒いどる時に比べたら、それと同じか、それよりも少しだけ楽しい。

「それなりには」

ひねた答えを口にしてから、ふと疑問に思う。

普段、こいつといてもいらつくだけやのに、何でやろ。楽しいやなんて。

「良かった」

沸き上がった疑問に頭を悩ませとると、菅野がふわりと笑う。

「良かった?」
「一氏といて楽しいの私だけじゃなくて」
「楽しかったんか、お前?」

小春にばっか懐いとるから、てっきり、俺は小春のオマケ扱いやとばかり思ってたんに。

「当たり前でしょ!私ずっと一氏と仲良くなりたいと思ってたんだから」

「あれでか?」
「あれでもよ」

わざと捻くれた疑問をぶつけると、彼女はさも当然と言わんばかりの態度。
せやけど嬉しそうに笑う菅野の表情に、思わずドキッとしてしまう。

あぁそうか。

いらついてたんは、こいつがおるからやなくて、こいつが小春にばっか懐いとったんが気に入らんかったんや。

一旦自覚してまえば、その感情は急速に膨らんで。

「一氏、どしたの?顔赤いよ?」
「何でもないわ、アホ」

きょとんとしとる菅野の顔さえも、まともに見れんくなってしもた。



ゆらのとを
わたるふなびと かぢをたえ
ゆくへもしらぬ こひのみちかな




(小春一筋のはずやったんに……)
(これからどないしよ……?)



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