「ひかは彼女なんておらんよねっ!?」
「は?」

ものっっっそい久々に、お隣りさんちの財前光の部屋に窓から侵入。
開口一番訊ねたら、眉間に皺寄せて睨まれた。


***


ウチとひかの関係は、世間一般でいう幼馴染み。
家が隣同士で、互いの部屋も真向かい。
小さい頃からいつも一緒で、今日のようにベタな漫画みたいな窓から窓へこんにちわ、なんてことも日常茶飯事やった。

けど、それも中学生になるまでの話。

アイツは近所の有名校・四天宝寺に通い、ウチは少し離れた名もない公立に通う。
距離も方角も違うから、家出る時間も帰ってくる時間もかちあわへん。
特にアイツがテニス部に入ってからは尚更顔を合わせることがなくなった。

それが何となく物足りなくて、胸にぽっかり穴が空いたような気持ちやった。

せやけど、ウチは何でそないな風に思うんか、ずっとわからんかった。
多分常に一緒におったヤツがおらんようになってつまらんからかな、なんて思うてた。

今日クラスメイトにひかを紹介してと頼まれるまでは。

白くて綺麗な肌をピンク色にして、財前君て付き合うてるコいるんかなと訊ねてきた彼女。
ウチがさぁ、と答えると懇願という単語がしっくりくるくらい必死にひかとの仲介を頼んできたあのコ。
すぐにひかのことが好きなんやってわかった。
けど、同時にもやもやとした何かが胸に凝った。

ひかの隣にあのコがおる。
ひかの隣でウチやない誰かが笑うとる。

それが堪らなく嫌やった。

なしてやろ、と考えに考えて漸く思いいたった理由。

ウチもひかのことが好きやったんや。

せやけど、ひかは他校の女子からも注目を浴びるくらいや。
とっくに彼女のひとりやふたりおるやもしれん。

それを確かめたいキモチと純粋にひかに逢いたいキモチ半分でお隣りの窓を叩いて、冒頭に戻るんや。


***


「なんやなまえ、自分俺がモテへんとでも言いたいんか」
「ちゃうって!寧ろモテモテみたいやから、どないなんやろって思うただけやっ!」

じとっと睨まれて(ひかの睨みは凄味があるから結構怖い)、だじたじしながら正直な理由を答えると、ひかはふぅんと興味なさそうにそっぽをむいた。

「ふぅん、やのうて!彼女おるんかおらんか教えてよっ!」

更に来客中なんにもかかわらずケータイを弄り出したひかをがくがく揺すりながら問いつづけると、根負けしたんか盛大な溜息をついた。

「別に、おらへんわ」

いつも通りの素っ気ない口調やったけど、その一言に全身の力が抜けたみたいに安心した。

「よかったぁ……っ!」

ふにゃふにゃとその場にへたりこむと、ひかが怪訝な顔を向けてくる。

「変なヤツやな。俺に彼女がおらんのがそないに嬉しいんか」
「そりゃあそうだよ!やってウチもひかがす、」

呆れたような苦笑を浮かべたひかに、反論しかけて口を噤む。

ちょい待ち、自分!
それは言うたらあかんやろ!

「俺が……何やて?」

流れに任せて迂闊なことを口走りかけた自分を戒めても、後の祭り。

言葉の端を聞き咎めたひかが、意地悪な笑みを浮かべてにじり寄ってきた。

「や、別に何も言うてへんしっ!」
「嘘つけ。さっきひかがとか何とか言いかけたやろ?」
「ひかの、そ、空耳やろ」
「あんなデカい空耳あるか、ボケ」

なんやねんっ!
さっきまでウチがおってもおらんでも関係ないみたいやったんに!

その態度に寂しいなんて感じてた自分はどこへやら、ウチは心ん中で悪態ついて、迫り来るひかから逃げるように後ずさる。

せやけど狭い部屋の中。
後退すればいずれ壁にぶつかる訳で。
ウチの背中がトン、と音を立てて壁に触れた瞬間を逃さず、ひかの腕がウチの両脇に伸びてきて、完全に逃げ場を失った。

「さっきの続き教えろや」
「さ、さっきってなんやねんっ!」

尚も知らぬ存ぜぬを貫き通そうとすれば、その意志を崩すかのように、ひかの骨張った指がウチの顎を掴んで上向けさせる。

「俺が“す”の後に続くんは、何や?」

至近距離で見詰められれば、自然と顔中に血液が集まって。

「なぁなまえ、続き聞かせてや」

妙に艶っぽい声。
長年一緒におったはずなんに、今まで1度も目にしたことない男の人の顔。

そんなひかに敵うはずがなくて、ウチは誘導尋問されたみたいに口を開いた。

「ウチも……ひか、が、す……好き、やもん……」

言葉に出した瞬間、ただでさえ熱い顔が更に熱を帯びる。

「……ふ、」

恥ずかしくて俯いたウチの耳に届いた小さな音。
ゆるゆると顔を上げると、ひかが小さく肩を揺らして笑うてた。

「なっ、なして笑うんっ!?」

一世一代の告白やっちゅうんに、答えが爆笑ってどういうことやねんっ、ひかのアホ!

さっきとは別の意味で血液が沸騰するんを感じとったら、ひかがまだ笑いの収まらん顔を向けてきた。

「やって今更やろ」
「な、何が」

かと思えば一転。
いつもの無表情に少し真剣さを帯びた顔。

「とっくの昔にお前が俺のこと好きなことくらい知っとるわ」

なまえが自覚するよりずっと前から、な。


不敵に吊り上がった唇がゆっくりウチのそれに近づいて。

ふわりと優しく触れ合った。



最後の1日




幼馴染みは今日でお終い。
これからは恋人としてよろしくね。



(ねぇひか。知っとったんなら、ウチの答え訊く必要なかったんちゃう?)
(……えぇやろ、別に(確証がなかったからなんて言える訳ないわ))



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財前に言われたい台詞「お前が俺のこと好きなことくらい知っとるわ」でした。
沙理衣様ありがとうございました!
幼馴染で付き合う前でという設定でしたので、リクエスト頂いた台詞を、ヒロインへのトドメとして採用させて頂きました。
財前にこれ言われたら、どこまでも彼について行きます(笑)

それでは少しでも楽しんで頂けることを祈って。


羽澄 拝


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