午前中の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
「暁ちゃん、お昼食べよー」
いつも通り、笑顔で懐いてくる奏。
「あ、俺も混ざってええ?」
彼女にうん、と頷こうとした瞬間、謙也が会話に割り込んできた。
「勿論!でも、あれ、謙也君、いつもは食堂じゃなかった?」
「今朝の待ち合わせ前にコンビニ寄ってきてん」
謙也は、鞄の中から惣菜パンやら、菓子パンやらを数個覗かせて、にかっと笑う。
いつもはコンビニなんて寄る時間もあれへんくらい、家出るんぎりぎりなんに。
珍しい謙也の行動の陰に見え隠れする、片時も奏と離れたないっちゅう主張。
こんなんで、ウチがお昼一緒しとったら、単なる邪魔者意外の何者でもないやん。
胸の内で呆れまじりに吐き捨ててみても、ずきずきとした心の痛みは消えてはくれへん。
「あ、白石も一緒にどや?」
普段は謙也に付き合うて、お弁当持って食堂に行く白石。
2人+1っちゅう状況よりはマシになるし、渡りに船やと思うたけど、白石は申し訳なさそうに眉を下げる。
「あー、スマン。今日部活の打ち合わせあんねん」
「ミーティングなんてあったか?」
「ちゃう、新聞部の方や。ちゅうか、来栖も呼ばれてたやろ?」
「あれ、せやっけ?」
白石の言葉はまさに寝耳に水。
こないだ部活顔出したけど、そないなこと言われたっけ?
「なんや、忘れとったん?急がんと部長にどやされるで」
イマイチ腑に落ちず、首を傾げるウチを、白石は「早よいこ」と、引きずっていく。
そんなウチらを、謙也と奏がぽかんとした表情で見送っていた。
***
「……これで、ごまかせたやろ」
教室を出て、文化部の部室棟へウチを引きずった白石は、人気が少なくなったところで漸く解放してくれた。
「なんや、やっぱし嘘やったんか」
「すまんな、騙してしもて」
「いや、ええよ」
ちゅうか寧ろ白石の嘘に救われた。
あの2人に混ざって昼食なんて、たとえ十数分でも、耐えられたとは思えへん。
「連れ出してくれて、おおきに」
「おん」
白石の長い腕がウチの頭に伸びて、ぽんぽんとあやされる。
その優しさが心に沁みる。
せやけど、同時に申し訳なくもあった。
やって、どうしても考えてしまう。
今、ウチを撫でてくれてるんが謙也やったら、と。
「ちゅうか、来栖どないする?」
「何が?」
「成り行きで連れ出してしもたけど、お昼、一緒に食う?」
「……白石さえよければ」
「ほな、決まり。中庭の木陰なら暑くもないし、ちょうどええやろ」
行こ、と自然な動作で差し出された手をとる。
白石といたら、少しだけど、寂しさを紛らわすことができる気がして。
ウチはウチの心の安寧のために、白石の優しさを利用した。
そんな自分の醜さに罪悪感を感じながらも、この日から、ウチと白石の2人だけで昼食を摂るんが日課になった。
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