最近、クラスメイトのひとりが妙だ。

「あ、白石。おはよー」
「っ、」

今日も、また。
挨拶しても、返してくれないどころか、さっと顔を背けられてしまう。

それだけじゃない。

カランっ!

「「あ、」」

白石の机から、転がったシャープペン。
拾おうとした手が重なり合うと、瞬時に引っ込められる。

「……はい」
「…………お、おおきに」

シャープペンを渡してあげても、決して目を合わせようとはしてくれない。

「……ねぇ、白石。最近ヘンだよ?」
「何が?」

気になって仕方ないから、手渡したついでに小声で訊ねるも、不機嫌そうな声で、きき返される。

「何がって……、白石自身が」
「……別に、フツーやろ」

1度もこちらを見ないまま、そう答えたっきり、白石はだんまりを決め込んだ。

……嘘つき。

フツーって言うなら、何で1度もこっちを見てくれないの?

「白石君、プリント配るん手伝うてー」
「おう」

他の人にはちゃんと笑いかけるのに、どうして?
どうして私には、視線も合わせてくれないの?

ちょっと前までは、割と仲良くて。
休み時間になれば、何とは無しに一緒にいて、他愛もない話をしてたハズなのに。

今は授業が終わると、すぐに白石は自分の席を離れてしまう。



まるで、私の隣は居心地悪いとでも言わんばかりに。



***



「はぁ……」

訳もわからず、白石に避けられたまま、数週間経った。

それまで仲が良かった分、理由もなく忌避されるのは、精神的に結構キツくて、学校に行くのも憂鬱になる。

「どないしたん、なまえちゃん?」

昇降口の前で、盛大な溜息を漏らすと、去年同じクラスだった小春ちゃんに声をかけられた。


「……成程ねぇ」

一通りの訳を話すと、小春ちゃんはひどく感心したような声をあげる。

「どうしたら、前みたいに戻れるのかな……?」
「……せやねぇ。完全に元通りとはいかんかもしらんけど……」



「……ほな、頑張ってね」
「うん。ありがとう、小春ちゃん!」
的確なアドバイスをくれた小春ちゃんと別れて、自分のクラスへ足を向けると、前方に白石を見つけた。

『なまえちゃんが思ってること、そのまま蔵リンに伝えればいいのよ』

胸にしまったばかりの助言が頭の中に蘇る。

「白石ーっ!」

小春ちゃんのアドバイス通り、ちゃんと話そう。

自分の思ってること全部を。


そう覚悟を決めて大声で呼んだけれど、相変わらず返答はない。
当然ながら予測はついていたことだけれど、寂しいし、腹も立つ。

「しーらーいーしーくーんっ!」

どんなに呼んでも、白石は足も止めようともしない。

……あぁ、もうっ!

瞬間、ぶちんっと私の中で何かが切れた。

バシンっ!

「!?」

怒りに任せて投げつけた上靴が、白石の頭に当たっていい音を立てた。
同時に、白石が漸くこちらをむいた。

「白石のバカっ!もう、大嫌いっ!」

言いたいことはたくさんあるのに、うまく言葉にならなくて、口をつくのは単純な罵詈雑言だけ。

はちきれた感情が制御できなくなって、ボロボロと涙が溢れる。

そんな自分が恥ずかしくて、情けなくて、無意識のうちに元来た方へ逆走していた。

「待ちやっ、みょうじ!」

呼び止める声。
追いかけてくる足音。

何で、どうして。
今までずっと、喋ってもくれなかったのに。

捻くれた感情が、逃げ足を更に加速させる。

けれど、そこはやはり男女の差。

「待ちやて……、言うてるやろっ!」

すぐに抜かされ、進路を塞がれる。

「っ、!」

そして、逃げるために身を翻す間も与えられずに、白石に腕を引かれた。

「すまん……っ!」

苦しいくらいに抱きしめられると同時に、頭上から降ってくるどこか悲痛な白石の声。

「俺……、好きやねん……。みょうじんこと……。せやから、嫌いやなんて言わんで……」

掠れた言葉に耳を疑うも、すぐにその疑念は晴れた。

だって、見上げた白石の顔が、耳まで真っ赤になっていたから。

「じゃ、じゃあ、最近白石が私を避けてたのって……」
「……こうなるの、見られたなかったからや」

観念したような語調で言って、白石は顔を隠すように手で覆った。

「良かった……」
「みょうじ!?」

緊張が解けて、廊下にそのままへたりこむ。

「……私、白石に嫌われてたんじゃなかったんだ……」
「俺がみょうじを嫌うはずないやろ」
「突然、避けられるようになったら誰でもそう思うでしょっ!」

差し延べられた白石手をとりつつぶすくれると、すまんと再び謝られた。

「せやけど、なして?みょうじは俺に嫌われたないん?」
「それはね……、」

言い置いて、今度は私から白石の背に両腕を回す。



「私も白石のことが好きだから」



私の答えに、白石は朱に染めた頬を綻ばせた。



シンデレラの憂鬱




その後。
パチパチパチパチ!!
((!?))
(白石ーおめでとうっ!)
(なまえちゃんもおめでとうっ!)
(〜〜っ!?)
(しまったな……。ここが昇降口やってこと、すっかり忘れとったわ……)




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大変お待たせしました。
聖様リクエストの「同じクラスで最近よそよそしいからの切甘」でした。
話を進めるほど、白石がヘタレにしかならず、何度も書き直したにも関わらず、結局ヘタレ度が高いままになってしまいました。
下手をしたらスピスタさんよりもヘタレかもしれませんorz

……こんな白石ですが、聖様に気に入って頂けたら幸いです。

そして相変わらず恋愛相談になると、小春ちゃんが出てきてしまいます…orz
本当は登場させずに終わらせようと思ったんですが、ひとりでもやもやしてるヒロインが、白石に対して感情をぶつけるきっかけが、小春ちゃんしか思い浮かばす…orz
発想が乏しくてすみません。

このような作品となりましたが、少しでもお楽しみ頂けましたでしょうか?
聖様のお気に召さない点がございましたら、いつでも何度でも書き直しさせて頂きますので、遠慮なくお申しつけ下さいませ。

それでは、10万打企画にご参加下さいました聖様に最大限の感謝を。
本当にありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!



羽澄 拝

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