平日の昼下がり。
キャンパス内にあるオープンカフェのテーブルから見上げる空は、高くて青い。

ヴーヴー

その眩しさに目を細めていると、テーブルの上に置いていたケータイが、音を立てて震えた。
画面を見れば、2週間前に、男友達から彼氏に昇格した白石の名前。

「『講義が延びたから少し遅れる』……か」

最後にごめんと謝るそのメールに、慌てなくていいよと返して、ケータイを鞄にしまう。

「はぁ……」

秋晴れの天気とは真逆の重たい溜息。

無理しなくてもいいのに。

理系学部に通う白石は後期からは、専門的な授業が増えて忙しくなると、ぼやいていた。
それなのにも関わらず、白石は忙しい合間を縫って、私との時間を作ろうとしてくれる。

フツーに考えれば、優しくていい彼氏なんだと思う。
でも、私にとっては、その優しさがツライ。
なぜなら私と白石の関係は、フツーではないから。



きっかけはサークルでの出来事。
私と白石は1年の時に入ったテニスサークルで知り合った。
ただ、テニスサークルと言っても、実際にはただの飲みサーで、本当にテニスをすることは、稀。
2週間前のサークル活動日も、部室に集まったメンバーで王様ゲームをしていた。
そして、何度めかのゲームで負けた私が受けた命令は、『今すぐ右隣りのヤツに告白しろ』というもの。

その時私の右側にいたのが白石。
にやりと笑った王様の顔からして恐らく、この命令の意図は、サークル内どころか、学校一の人気者にフラれる姿を大勢の前に晒せってことだったんだと思う。

でも、そんな王の思惑は大きくハズレて。

『好きです。付き合って下さい』

恥かくのが分かりきってたから、めちゃくちゃぶっきらぼうな態度で口にした告白。

『ええよ』

それなのに白石は間髪入れずにそう答えた。

彼の返事に私自身だけでなく、あの時部室にいた全員に、どよめきが走ったのは言うまでもない。



「……、みょうじ。みょうじ」

名前を呼ばれてることに気がついて、顔を上げると、いつの間に来ていたのか、白石が心配そうな表情で、こちらを覗き込んでいた。

「やっと気づいた。随分ぼんやりしとったけど、どっか調子悪いんか?」
「ううんっ、そんなことないよ」
「……ホンマに?」
「うん!それよりも白石、今日はどこ連れてってくれるの?」
「映画館。こないだみょうじが観たいって言うてたの、観ようかと思うて」

ほな、行こうか、と手を取られる。
指先から伝わる、自分とは違う温度に、胸が弾むけど、同時に悲しくもなった。

多分、あの告白が罰ゲームなんかじゃなくて、ちゃんとしたものだったら、この状況も素直に喜べたんだと思う。
私も大多数の女子と同じで、白石のことが好きだったから。

でも、白石は?
何で私と付き合ってるの?
告白が罰ゲームだって、知ってるのに、何でOKしたの?

考えれば考えるほど、白石の意図がわからなくなる。
だって、付き合うって言っても、今までと変わったのは、白石と2人きりでいる時間が少し増えたことと、今みたいに手を繋ぐようになったことくらい。
名前だって、お互い苗字呼びのままだし、キスだってしたことない。
それどころか、白石に好きだと言われた覚えもない。

それなのに、どうしてこんなに優しいの?
もしかして、これもゲームの続きなの?
白石は、何の為に私と付き合ってるの?


「……みょうじ、どないしたん?」
「え?」

不意に白石が立ち止まる。
長い指がこちらに伸びて、頬に触れた。

「!」

親指で拭われたところが、秋風に当たって冷たい。

「泣けてくるほど、調子悪い?」

知らぬ間に零れてた涙。
泣いてることを自覚してしまったのと、白石が優しいせいで、喉の奥が苦しくなる。
言葉が出ない代わりに、首を横に振って答えると、白石は端正な眉を下げた。

「やったら……、俺が何かした?」

一瞬だけ躊躇ってしまったけど、この質問にも頭を振った。

「……せやったら、」

そっと頭を抱き寄せられて、白石の腕に閉じ込められた。

「どないすれば、泣き止んでくれる?みょうじの……、好きなコの涙見るんは、苦しいんや……」

「え……?」

耳朶に触れる、熱っぽい声に、私は耳を疑った。

「白石、今なんて……?」
「みょうじに泣かれるんは苦しいって言うたんやけど?」

目を丸くする私に、白石は怪訝な顔を向ける。

「じゃあ好きなコって私のこと……?」
「当たり前やろ。他に誰がおるっちゅうねん」

さも当然と言わんばかりに、自身たっぷりな白石の顔。
それを見た瞬間、張り詰めていた心が一気に緩んで、その場に座り込んでしまった。

「みょうじっ!?」

慌てて助けてくれる白石。
彼の優しさに偽りがないとわかった途端、素直にそれに甘えられる私は、かなり現金かもしれない。

「よかった……。ちゃんと好きでいて貰えてて」
「!」

支えてくれる白石の腕に体重を預けて、ふにゃりと笑うと、白石は、はっと目を瞠った。

「……もしかして、不安にさせとった?」
「……ほんの、少しだけ」

しょんぼりとした切れ長の瞳に、言葉を濁す。

「罰ゲームで告白しちゃったから……、白石の答えも、付き合ってるのも、ホントじゃないのかなって……」
「っ……!」

泣き笑いみたいな顔してる私を、白石の腕がきつく抱きしめる。

「ごめんな……。あの後、改めて言うべきやったな、好きやって」
「!」

泣き腫らした瞼に触れる、柔らかな感触。


「みょうじ、好きや。俺と付き合うて下さい」


「うん……っ!」



嘘から出たマコト




その後。
(あの日、王様ゲームはじめたヤツらに感謝せんとあかんな)
(どうして?)
(こうしてなまえと一緒におれるきっかけくれたから、な)
((名前呼び……っ!))




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まな様リクエストの、「大学生白石×ヒロインで、冗談の告白から始まった関係に悩む」お話でした。

話の中ではわかりにくかったかもしれませんが、白石は結構前からヒロインのことが好きです。
だから、罰ゲームだってわかっていても本気で返事をしたり。
白石としては大勢の前でOKすれば、バッチリ虫よけにもなるし、ヒロインが冗談のつもりで告白したとしても、付き合っていく中でオトせもするしで、一石二鳥ですし。

けれどそんな白石のキモチに気づかないヒロインは切なく……。

と言った感じを目指してみましたが、いかがでしたでしょうか。
少しでもお楽しみ頂けましたら、幸いです。

リクエスト下さったまな様、本当にありがとうございました!
書き直しのご要望があれば、いつでも承りますので、遠慮なくお申しつけ下さいね。



羽澄 拝

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