もうすぐ、大好きな鹿目先輩の誕生日。男の人って何が欲しいのかわからなくて、野球部のみんなに聞いてみることにした。とりあえず、同じクラスで今日も仲良く話している二人の元に近付く。

「虎鉄くん、猪里くん」
「ん、どうしta、マネージャー」
「深刻な顔ったい」
「鹿目先輩って何が好きかな」

二人は顔を見合わせてから、ちょっと考え込む。

「おばあちゃんっ子っていうのは聞いたけどna…」
「ほかは、野球くらいしか浮かばないっちゃね…」
「でも、プレゼントを考えてるの」

おばあちゃんも、野球も、確かに鹿目先輩の好きなものではあるけど、プレゼントにはできない。

「なんだ、プレゼントなら、手料理でも作ったらいいじゃねーka」
「確かに、それはよかとね!」
「て、手料理…」
「…って待てyo、確かお前、料理ど下手じゃなかったka…?」

虎鉄くんの言葉に、猪里くんもはっとする。このことが野球部に知れ渡ったのは今年のバレンタインのことだった。わたしが部員のみんなに作ってきたチョコクッキーが、あまりに見た目からして悪くって、誰も食べてくれなくて。仕方なく鹿目先輩が全部食べようとしてくれたのだけど、数枚で倒れてしまったのだ。あの日からわたしは料理をやめてしまったので、上達も見込めない。

「あー…まあ、本人に直接聞くのが一番確実じゃねーno…」
「サプライズにしたいから、二人に聞いたのに…」
「役に立てなくてごめんっちゃけど、俺もそれが一番やなかとと思う」
「うん、ありがとう…」

確かにそれは間違いないけど、やっぱり諦められない。ヒントはないかと、今度は一年生のみんなに聞きに行く。

「兎丸くん、司馬くん!」
「あ、先輩!どうしたの?」
「あのね、二人は鹿目先輩の好きなものって知らない?」
「先輩でしょ?」
「いや、あの、そういうのじゃなくて…誕生日プレゼントを考えてるんだけど、男の人が喜ぶものがわからなくて」
「僕だったらゲームとかもらったら嬉しいけど…司馬くんは?」
「…、」
「ふーん、先輩の好きなCDかあ。普段聴かない曲が聴けるのは確かにいいけど、もし気に入らなかったら、それって押し付けだよねえ」

サラリと酷い兎丸くん。自分はゲームと子供っぽいことを言いながら、人の意見はばっちり批判とは、怖い子だ。

「でもどっちも、鹿目先輩のプレゼントには参考にならなそうだよね」
「うーん…うん」
「他の人にも聞いてみよ!おーい、子津くん!」

兎丸くんは、席で猿野くんと話していた子津くんを手招きする。キョトンとして寄ってくる子津くんと、当然のように一緒に来る猿野くん。

「なんすか?兎丸くん」
「先輩がね、男の人が喜ぶプレゼントを考えてるんだって!子津くんなら何が欲しい?」
「そうっすね、俺は…」
「オイこらスバガキ!そんな面白そうな話、なんで敢えて俺にふろうとしないんだよ!」
「だってどうせまともなこと言わないでしょ、先輩は真面目に考えてるんだもん。ね、先輩!」
「え、あ、あはは」

確かに猿野くんに聞いてまともな答えが返ってくる気はしないけど、兎丸くんははっきり言いすぎて、ハラハラする。そして、そんな会話の間も真面目に考えてくれている子津くん、なんていい子だろう。

「で、子津くんは?」
「俺は…好きな子からもらえるなら、何でも嬉しいっすね…」
「普通すぎるよ子津くん!」

またまた厳しい兎丸くん。範囲広すぎて余計迷うでしょと兎丸くんにダメ出しされ、面白くないと猿野くんにもダメ出しされ、しゅんとしてしまう子津くん。いたたまれない。

「えっと…みんなありがとう、参考にするよ」
「頑張ってね、先輩〜」

四人に見送られ、一年生の教室を後にする。結局、いいアイデアは出てこなかったな。鹿目先輩は、何を喜ぶだろう。ここはもう、三年間一緒にいる三年生の先輩に聞くしかない。

「牛尾先輩!」
「おや、どうかしたかい?」
「あの、鹿目先輩の誕生日プレゼントで悩んでいるんですけど、何が喜んでもらえると思いますか?」

牛尾先輩は、いつもの手袋をはめた手を顎に持っていき、真剣な顔で考えてくれる。考えている顔も、絵になる人だ。

「そうだな…恋人の誕生日となれば、やはり定番は薔薇の花じゃないかな」
「え?」
「ああ、でも普通、花は男性から女性へのプレゼントだよね。すまない」
「は、はあ…」

牛尾先輩の恋愛観は、どこから来てるんだろう。蛇神先輩や獅子川先輩、三象先輩に比べてまともな答えが望めそうだと思って牛尾先輩に聞きに来たけど、牛尾先輩も少しズレているのを忘れていた。




誕生日当日。悩みすぎて、結局プレゼントを買ってないなんて、最悪の状況だ。しかしないものはない。仕方なく、部活が始まる前、鹿目先輩を呼び止めて、思いきって切り出した。

「鹿目先輩!」
「なんなのだ」
「実は、あの、誕生日プレゼント、何がいいのか悩みすぎて、何も買えなくて…ごめんなさい」

しばらく何も言わない鹿目先輩に、不安になって顔上げる。鹿目先輩は呆れたように、大きなため息をついた。

「今日一日寄って来ないと思えば、そんなことか…」
「う」
「別にボクは、お前に物を求めてなんかいないのだ」
「でも、」
「お前から笑顔で祝いの言葉をもらえれば、それで十分なのだ。なのに開口一番、何を言うかと思えば」

そういえば、おめでとうを言っていない。鹿目先輩のちょっと寂しそうな顔に、自分は馬鹿だなあと、泣きそうになる。

「…鹿目先輩」
「ん」
「お誕生日、おめでとうございます。大好き」

そう言うと、無言で抱きしめてくれる鹿目先輩。

「泣きそうな顔で言うな。後から笑顔で言い直しなのだ」
「はい…!」

ああもう。不器用に優しい鹿目先輩が、どうしようもなく大好きだ。


ほしいもの、下手くそなきみの笑顔

9/25 鹿目筒良HappyBirthday!
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