「マサキさん見て見て、珍しいでしょ、この子。お月見山で出会ったの」
「ピッピか、可愛らしなぁ」
「なぁんだ、見たことあったのかぁ」
「当たり前や!わてを誰やと思てるんや?」
「ふふふ。じゃあこの子、預けていきますね」
「なんや、転送マシン使えばええんに。せっかく開発したんやから」
「珍しいと思ったから直接見せたかったんですぅ」
「さよか」

ハナダの岬に一人、機械とポケモンに囲まれ暮らすマサキさん。ポケモンマニアと呼ばれ、ちょっと変な人扱いされてる彼は、本当は面白くて可愛くて、そして天才的な頭脳を持っている人。わたし的には、ポケモンにしたらノーマルタイプって感じ。

「そういえばな、前に知り合いから月の石もろたんやけど、使うタイミングあらへんから、やろか?ピクシーに進化させれるで」
「いいんですか?」
「ええよ」

くしゃりと笑う、この顔。こちとら、この笑顔が見たくて、はるばるハナダまで戻ってきている。ほわっと元気をもらい、ついでにありがたく石ももらっておいた。ピッピにかざすと、キラキラと体が光り、やがて形が変わり、ピクシーに進化した。

「やっぱ、何回見ても進化の瞬間っちゅうのは神秘的やなぁ」
「ですね!」

嬉しそうなピクシーを抱きしめるように撫で回してからボールに戻す。

「あんたは本当にポケモンを愛しとるのが伝わってきて、こっちも気持ちええわ」
「ポケモンを好きな気持ちはマサキさんにもまけませんから!」
「そこは譲られへんけども、そんだけの愛を見込んで頼みがあんねんけど」
「頼み?」
「こいつ、連れてってやってくれへん?」

マサキさんが取り出したモンスターボールから出てきたのは、イーブイ。色んなタイプに進化する、不思議なポケモン。

「イーブイは不思議なポケモンや。未だにたくさんの研究者が研究しとる。このイーブイも知り合いの研究者から預かっててんけど、わては忙しくて育ててやれへんから、お前さんに頼みたいんや」
「わたしでいいなら、ぜひ!」
「好きなタイプに進化させて、また見せに来てや」
「はい!」

マサキさんから預かったイーブイ。大好きなマサキさんがわたしを頼ってくれたのが嬉しくて嬉しくて、岬の小屋を出てからすぐにイーブイをボールから出し、抱き上げる。

「イーブイくん。今日からわたしと一緒に頑張ろうね!」

わたしの言葉を聞いて、可愛らしい顔に似合わない、めらめら燃えるような瞳で笑ってみせたイーブイ。どうやらこの子、勇敢な性格のようだ。個性は血の気が多いか喧嘩っ早いか、戦うことが好きだと見た。どうにもイーブイらしくないが、相性は悪くないよう。うんと強くして、マサキさんを驚かせてやろう。

「イーブイ、君は何に進化したい?」

イーブイは、めらめら燃えるやる気の表情を、少し困ったような表情に変えた。

「ごめんごめん、進化後のことを考えるのはまだまだ早かったね。これからゆっくり考えよう」

わたしはイーブイを育てるのは初めてだ。どのタイプに進化させるとしたって、新鮮でわくわくなのだ。イーブイを進化させるまで、マサキさんに会うのは我慢。ポケモンを預けるのも、大人しく転送マシンを使おう。楽しみはとっておいた方が、ドキドキが増すものなのである。





「マサキさーん!」
「お、久しぶりやなぁ!」

マサキさん不足だったわたしは、久々に岬の小屋を見た瞬間、思わず全力疾走してしまい、息が切れていた。しかし、コーヒーカップを片手に笑顔で振り返ったマサキさんを見たら、一瞬で元気になってしまうのがわたし。

「今日はどないしたん?最近は、預けるのも転送マシンを使うようになったのに」
「今日はこの子のことです」

じゃあん、とモンスターボールを取り出す。すぐにピンときたらしいマサキさん。

「預けとったイーブイか」
「はい!立派に育ってます!」
「で、何に進化させたん?」
「何だと思いますか?」

ここ数週間、ずっと一緒に戦ったイーブイは、今はもう別の姿。何に進化するかは一緒に考え、一緒に決めた。進化に必要な石も、一緒に探しに行ったのだ。

「うーん、難しい質問やな」
「シャワーズにブースター、サンダースもあります!」

正解確率、3分の1。こんな質問にも真面目に付き合って、真剣に考えてくれるマサキさん、優しい。そんなところも大好きなのだ。

「…ブースター」
「え?」
「あ、やっぱりちゃう?」
「あ…当たりです!どうしてわかったんですか?!」

興奮して聞いたけど、勘に決まってるかとすぐに思った。しかしマサキさんの言葉は違うもので。

「なんや、お前に似てるなーって思て」
「え、わたしに?」

わたしはボールのスイッチを押した。ブースターが飛び出す。めらめら燃える闘志を秘めたこの子には、炎タイプのブースターしかないと思ったのだ。でも多分、わたしには似てない…よなあ?

「せや。それにな、わてブースターが一番好きやねん。せやからブースターって言うてみたら、当たったわ」

ブースターのフカフカの毛を撫でながら、マサキさんが笑う。なに、それ。そんな言い方、期待しちゃいます。

「で、当てたけど何か景品、出ぇへんの?」
「え、あ」
「冗談や」
「あります!」
「え、ほんまに?」

ドキドキで危うく忘れるところだった。久しぶりに会いにいくからって、ちょっと気合いが入って、クッキーなんか焼いたのだ。景品というつもりで持ってきたんじゃないけど、マサキさんにあげたかったし別にいい。可愛く包装したクッキーを取り出し、マサキさんに渡す。

「もしかして、手作り?」
「もちろんです!」

わたしの満面の笑みに、いつもの笑顔が返ってくるかと思えば、ちょっとほっぺを赤くしたマサキさん。え、可愛い。どうしよう。今なら勢いでマサキさん好きです大好きですって言えちゃいそう。でもなあ、マサキさん、わたしのこときっとそんな風に見てない。話せなくなっちゃったら寂しいしやっぱり言えない。でも言いたい。言えない。どっちなの、もう。

「ありがとうな」
「あ、は、はい!」
「お礼に今度、ご飯でも行こか」
「え?!」

急展開に大声を出したわたしに、マサキさんもちょっと慌てた。嫌じゃない嫌じゃない、行きたい!マサキさんとごはん!

「嫌やったら、」
「嫌じゃない!行きたいです!」
「はは、そない必死に言わんでも。やっぱり旅はお金かかるもんなあ」
「おごり目当てとかじゃなくて!」

うわあ、マサキさん目当てと言ってしまったようなもんじゃないか恥ずかしい!マサキさんはちょっと赤くなったまま、わたしの勢いにぽかんとしている。

「お…おいしいお店紹介して下さい!」
「あ、お、おお。まかしとき!」

照れ隠しにブースターを抱き上げ、半分くらい顔を隠す。こんな急展開、この子のおかげ、かな?とにかく、マサキさんとご飯に行けるかわりに、この子には一番いいポケモンフーズをたくさんあげなきゃ。


曖昧な頼りない呪文を星にのせて


title by 幸福
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