わたしは冬になると毎年、マサラタウンに帰る。旅先がシンオウとかイッシュとか遠くの地方でも、帰ってくる。理由は、まあ年に一度くらいは親に顔見せなきゃなあっていうのもあるけど、一番はなかなか会えない幼馴染み達に会いたいから。

今年も年末が近付き、はるばるホウエンから海を渡って、クチバの港に立つ。潮風も今は寒いばっかりで、わたしはマフラーに顔を埋めた。カイリューで空を飛んで行こうと思ってたけど、寒すぎるからしばらく歩こうかと考えていたとき、ぽんと肩に手が置かれた。

「わっ」
「久しぶりだな」
「グリーン!」
「歩いてマサラまで行く気か?日が暮れるぜ」
「だって、カントー寒すぎ」

さっきまでホウエンにいた身には厳しい寒さだ。ほんと、お前の手冷たいな、とわたしの手を掴んだグリーンの手は暖かい。そのまま道路の方へ引っ張られ、人気が少なくなる草むらの近くで立ち止まった。何をするのかと思ったら、彼は腰のモンスターボールに手をかけた。

「出てこいギャロップ!」
「え、何?いきなりバトル?」
「ちげぇよ!迎えに来てやったの。ギャロップなら寒くないだろ?」

先にギャロップに飛び乗ると、手を差し出してくれるグリーン。白馬で迎えに来るなんて、キザなグリーンらしい。わたしはその手を取って、引っ張り上げられギャロップの背に座る。ギャロップの体はほんのりと暖かく、背中にはグリーンの体温を感じる。そのお陰で、グリーンが声をかけ、一歩でギャロップが最高速度まで加速した後の身を切るような寒さも、耐えられた。猛スピードのギャロップは、長くかからずマサラタウンに到着した。

「ありがとギャロップ、グリーン」

ギャロップの首を叩くと、嬉しそうに頭を擦りつけてきた。グリーンも、昔は見せることがなかったような穏やかな笑顔を浮かべた。

「おかえり」
「ただいま」

グリーンの言葉はゆっくりとわたしの脳に浸透して、暖かい気持ちになった。


超自由人レッドがマサラに戻ってきたのは、それから一週間後だった。特に冷え込む寒い日に空を飛んで現れたレッドは、雪まみれだ。ちなみにマサラは寒いけど雪は降ってない。つまり、恐らく、シロガネ山の雪だ。真っ先に彼を迎えたわたしとグリーンは、ふらりと降り立ったレッドに駆け寄る。

「ちょっとレッド、なんで雪くらい払って来ないの!」
「来る前連絡しろっつったろ!」
「…寒い」

わたし達の言葉など当然のように無視されて、レッドは倒れ込むようにわたしに抱き着いてきた。よろけながらも、それを受け止める。

「こんな薄着で雪積もらせたまんまじゃ、寒いに決まってるでしょ」
「…でもシロガネ山に比べたら、マサラは暖かい」
「そんな我慢大会みたいなことしてたら、いつか凍死しちゃうよ」
「まあ…なんとかなる」

訳わかんないけど、レッドならほんとになんとかする気がしてしまう。

「ていうかレッド、重い」
「こうしてた方が暖かい」
「雪払って風呂入ってこい!」

グリーンに頭を叩かれても、レッドは動じない。

「…仕方ねぇな、タオルとってきてやるから、待っとけよ!」

無言のレッドにグリーンが折れて、小走りで家に向かった。それを見送ってから、未だ引っ付いたままのレッドを見る。

「レッド、おかえり」
「…ただいま」

頬に触れていたレッドの耳の温度が上がる。照れたのだろうか、珍しい。そうしている間にもグリーンが、タオルを持って戻ってきた。乱暴にレッドの頭にタオルを投げ付け、ガシガシと拭く。

「ちょっとは自分で動けよな!」
「グリーン、それより先に言うことあるでしょ、レッドに」
「は?」
「おかえり、って」
「な、」
「…別にいいから」
「わたしには言ってくれたのに」

グリーンは恥ずかしそうに顔を逸らし、レッドはますますわたしの肩に顔を埋めた。

「なんで照れてるの?それ言うのってそんなに恥ずかしい?」
「今さらだろ」
「関係ないよ。おかえりって言われると暖かい気持ちになるじゃない。いつだって大切な言葉だよ」

わたしが言うと、グリーンは頭をかきながら、こっちを見ずにボソボソと口を動かした。

「聞こえないよグリーン」
「見えてんだろ」
「レッドは見てないじゃん」
「…ったく……おかえり、引きこもりのバカレッド!」

グリーンは顔を真っ赤にしながら言った。ほんとに、なんでこれだけのことで照れるのか。一方のレッドは、グイッとわたしの体を押して、ようやく離れた。

「大人ぶってても、言うことは昔のグリーンと変わってないのか…」
「…っ、レッドお前、人がせっかく…!」

レッドが素早くわたしの後ろに隠れたので、仕方なく苦笑いしながらグリーンを宥めた。その時にレッドが、本当に小さな声でただいま、と言ったのは、多分わたしにしか聞こえてなかっただろう。


聞こえないよバカ


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