「おねーさん」
可愛い声で呼ばれて振り返る。そこにいたのは、小さな体で大きな壷を抱えた男の子。
「喜三太くん」
小さな彼はいつも、わたしのことを事務のお姉さんと呼ぶ。名前を呼ばれないのは彼なりのポリシーかなにかなのか、とりあえずしょっちゅう話かけてくれる彼に、嫌われているとは思えない。
「どうしたの?」
「おねーさん、ボクね、今日から夏休みなんだ」
「そうね、わたしもだよ。喜三太くんも、お家に帰るのでしょう?」
「うん」
壷をぎゅっと抱く喜三太くん。いつもと様子が違う。わたしはしゃがんで喜三太くんと視線を合わせた。喜三太くんははっとして、それからちょっとだけ視線を落とす。何か言いたげな彼が話してくれるまで、わたしは待つことにした。
「あの、」
「うん」
「ボク、夏休みの間おねーさんに会えないの、さびしいよ」
きゅん、と胸が鳴った。なんて可愛い子なんだろう。わたしはいじけたように上唇を突き出す喜三太くんの頭を撫でた。
「ありがとう、喜三太くん。わたしも寂しいな。でもね、会えない間寂しいなあって思ってると、次に会えたときにもっと喜びが増すのよ」
「…本当に?」
「うん、本当」
笑顔で言うと、喜三太くんは納得してくれたようで、ようやくいつもの太陽みたいな笑顔を見せてくれた。
「あのね、おねーさん」
「うん」
「ボク、おねーさんのこと名前で呼んだことないの、知ってた?」
「、知ってるよ」
気になってたから、というのは言わないでおいた。
「ボク、大きくなって立派な忍者になった時に呼びたいから、我慢してるんだ」
「え?」
「おねーさんに、小さいこどもじゃなくて、ちゃんと男の人って認めてもらえるくらい強くなってからって、決めてるの!」
壷を脇に置いて、わたしの両手を握って真剣な表情を見せた喜三太くんが、急にかっこよく見えてしまっただなんて、彼が立派な忍者になるまでは言わないでおこう。
山村くんと
なつやすみ