今日の天気は、非常に激しい吹雪。そのせいで決行予定だった仕事が無しになった。やることもなくて暇で、吹雪だっていうのに完全防寒して彼女の家に向かったら、彼女はパジャマのまま、ボサボサの髪のまま、眠そうな顔で玄関に現れた。部屋は別の世界のように暖かい。

「あれシャル、今日仕事じゃなかったっけ」
「無しになったんだ、この吹雪で」
「ふーん、連絡くれれば部屋片付けたかもしれないのに」
「絶対片付けないでしょ」
「まあ、多分」

彼女はとっても横着で大雑把で、その上酷く鈍感だ。そんな彼女にどうして惚れたのか、自分でも全くわからない。でも本気で好きになってしまって、いつものお遊びの恋愛なんかよりもかなり本気でアタックして、鈍感で全然動かなかった彼女をやっとのことで落としたのだ。

冬の間、彼女の部屋には必ずこたつがあり、大抵その周りには服や鞄が散乱している。来る度に俺は、自分のいるスペースを確保するためにそれを片付けている。今日も、服を畳みつつ一カ所にまとめ、鞄をクローゼットに突っ込む。彼女は俺にタオルを一枚出した後、髪を軽く手櫛で整えながら、お茶の用意のためキッチンに入っていった。

「シャル何したい?」

キッチンのカウンターの向こうから彼女が言う。吹雪の中彼氏がわざわざ会いにきたっていうのに、その反応はあまりにもいつも通りだ。

「んー、特に何も。顔見に来ただけ」
「じゃあDVD見ようよ、この前借りてきた映画まだ見てないんだ」

コーヒーを二つ持ってきた彼女は、カップをこたつに置き、クローゼットの鞄を再び引っ張り出そうとする。俺は慌ててそれを制止した。

「テレビの上に置いたよ」
「あ、ほんと、ありがとう」

にっこり、笑った彼女はやっぱり可愛い。こういうとこが好きなのかなぁと思いながら、こたつに足を入れてコーヒーを手に取った。冷え切っていた手足に、急激な温かさがジンジンする。プレイヤーをいじっていた彼女も、戻ってきて隣に座る。

「今日は泣くぞー」
「感動系?」
「うん。嫌い?」
「いや」

別に、映画が好きとか嫌いとかはいいんだ。彼女の隣で見るのに意味がある。雪の降る日にお家で映画鑑賞なんてさ、いかにも。彼女があまりラブストーリーが好きじゃないことが残念だ。





数十分後、隣からは規則正しい寝息が聞こえてきた。お家で映画鑑賞なんていかにも、彼女が寝ちゃいそうなシチュエーションだよ。なんで忘れてたんだか。首がガクンと垂れて首が痛そう彼女を、起こさないようそっと、寝かせてあげる。どうせ俺が来る前もこうやって、こたつで寝てたんだろうな。

横着で大雑把で鈍感な彼女も、寝てしまえばその寝顔は純粋な少女のようだ。無防備な表情に、ドキドキする自分に気が付く。泣く子も黙る幻影旅団だって、好きな子を目の前にしたらただの男だ。起きている彼女にはなかなかできないこと。俺は彼女の頭の両脇に手を置いて、顔を近付けていく。

ぱち。彼女の長い睫毛がゆっくり動く。彼女が目を開けた。至近距離にある俺の顔にも動じず、それどころか眠そうな半目のまま彼女は微笑んだ。

「シャルの目は綺麗な碧なのね」

くしゃ、と俺の前髪を撫でるように退けて、目をじっと見詰められる。彼女の目に映る自分は恥ずかしいくらい情けなく、照れて口を噤んでいる。

「宝石のようだし、何か高級な果物のようにも見えるわ」

彼女は俺の頭の後ろに手を回し、引き寄せた。抵抗もできず、されるがままに彼女に近付いていく。俺は目を閉じた。小さなリップ音がやけに大きく耳に響いた。

「とっても美味しそうね」

俺の瞼にキスをした彼女は、満足そうに笑った。体勢的には俺が圧倒的優位にいるのに、なぜだか彼女に敵う気がしない。それどころか、彼女になら何をされてもいいという気分になる。あれ、俺いつからマゾヒストに、なんて思ったが、すぐにそれは違うと思い至った。これは所謂あれだ。


惚れた弱み



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