私が初めて彼を見つけたのは、いつだったか。

ふと、海を見ていたくなって、少し遠回りして海沿いの道を歩いて帰った日。波打ち際に、脇にサーフボードを持って、立っている人を見た。夕陽の色と小麦色の肌、明るいピンクの髪のコントラストが芸術作品のように綺麗だったので、私は思わず見惚れてしまったのだ。燃えるようなオレンジの波に乗り出した彼に、私の心が奪われるまで、時間はかからなかった。




「ああ。それ、三年生の綱海条介だよ」

翌日。部活で音村くんに昨日の話をしてみれば、あっさりと答えが返ってきた。綱海条介、と頭の中で何度か反芻する。こんなことを言えば、彼の何を知っているの、と言われてしまいそうだけど、彼にぴったりな名前だと思った。

「綱海がどうかしたの?」
「べ、べつに」
「…もしかして」
「違うってば!そんなんじゃないの!」
「まだ何も言ってないけど」

音村くんのにんまり笑顔に、謀られた!と叫んだら、キャンちゃんに勝手に言ったんでしょうと言われた。とにかく、私が初めて経験した淡い想いは、一日で二人にばれてしまった。

それはさておき。その日から私は、ちょくちょく海沿いの道を通って帰るようになった。そのうち何度かは、音村くん達に引っ張られて連れていかれたんだけど。綱海さんはほとんどいつも海岸にいて、サーフィンをしていたり、小さな子に囲まれて遊んであげていたりしていた。サーフィンとこどもに好かれる才能だけはあるんだ、と、綱海さんと知り合いらしい音村くんは言っていた。こどもに好かれるなんて、優しい人なんだな。笑顔を見ていても、その人柄はよくわかる。いつだって彼は、見ている方が幸せになるような、キラキラした笑顔をしていた。こども達に囲まれる彼も、学校の廊下で偶然会う彼も、キラキラしているので、すぐに見付けられる。そのことをキャンちゃんに話したら、恋する乙女だね、と笑われた。




遠くから見ているだけでも、私は十分幸せだった。もちろん、話せたらもっと楽しいだろうなとは思ったこともあるけれど、学年も違うし部活もしていない綱海さんと私とでは、接点が一つもない。しかし、話すきっかけはある日突然やってきた。

「みんな、こいつは今日からサッカー部に入った綱海だ」
「よろしくな!」

監督が部室に連れて来たのは、綱海さんだった。薄暗い部室の中でもキラキラした綱海さんは、いつもの笑顔を浮かべている。こんなに近くで見たのは初めてで、心臓がばっくばくだ。こんなんじゃいけない、勇気を出して話し掛けよう、と思って口を開いた時、タイミングよく綱海さんがこっちを見て、目が合った。

「あ!」
「え?」

突然大きな声を出した綱海さんにびっくりして、私は口を開けたまま固まってしまった。

「お前、たまに海岸の道通って帰ってるやつじゃないか?」
「え、ええ!なんで知ってるんですか!」

まさかのまさか。さりげなく通っていたのに、気付いているなんて思ってなかった。急に恥ずかしさが込み上げてきて、顔があっつくなって、顔を伏せる。けれど、次の綱海さんの言葉に、さっきとは比べほどにならないほど、体中の体温が急上昇した。

「いつも、気になってたんだ」



陽の差す方へ


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テーマ「人外ファンタジー」
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