さようなら、と終礼が終わり、クラスのみんなはぞろぞろと教室から出始める。人の波が去るまで友達と話していようかな、と私も立ち上がったけれど、友達の席に辿り着く前に、大声で名前を呼ばれ、ぎょっとした。声の主はクラスのムードメーカー、綱海くんだ。正直、あんまり話したことはない。エイリア学園と戦ったり、FFIの選抜選手に選ばれたり、かなり有名人の綱海くんの周りには常に人がいたし、話しかける理由もなかったし。なので、何の用事なのか全く予想がつかない。返事をしないでいたら、何度も何度も名前を叫ぶので、私は慌てて綱海くんに駆け寄った。

「お、やっと見つけた!」
「ど、どうしたの、綱海くん」
「どうしたの、じゃねーぞ!お前今日、俺と一緒に日直って知ってたか?」
「あ!」

そういえば、朝礼でそんなことを言われたような気もする。綱海くんの手には、学級日誌。日直は日誌に、一日の時間割などと、生徒所感という一言感想を書かなければいけないのだ。

「ごめん、忘れてた!」
「他書いといたから、一言と名前だけ書けよ」

忘れていたというのに、人のいい笑顔を見せた綱海くんは、日誌を私に渡してくれた。今日のページを開くと、男の子らしい少し雑な字で、時間割と一言が書かれていた。体育のサッカーで点を取った、また円堂達とサッカーがしたい。綱海くんのサッカーか、ちょっと見たかったなぁと思いながら席に戻り、鞄から筆箱を取り出す。シャーペンのおしりをカチカチしながら、何を書くか考えていると、前の席の椅子が引かれた。顔を上げると、にこにこした綱海くんと目が合う。

「…綱海くん?」
「ん?」
「どうか、した?」

椅子の背もたれに肘をついて、見物する気満々の綱海くん。こういうのを書くときって、見られながらだと恥ずかしい。

「お前が書き終わるの待ってんだ」
「そんな、先に帰っていいよ!私、職員室に持ってっとくから」
「遠慮すんなって!俺も日直だし、一緒に持ってこうぜ!」

この笑顔。こんな顔されたら断れない。私はわかった、と呟きながら、日誌に視線を落とした。やっぱり気になる視線を頑張って無視して、書くことを考える。私も体育のことでいっか。女子はバドミントンで、私は一勝一敗だった。書くほどのことじゃないけど、まあ、いいよね。私は視線を感じながら、シャーペンを走らせた。けれど、半分くらい書いたところで、いきなり綱海くんが話し始めた。

「…お前さ、」
「はいっ?」
「字、綺麗だな!」

恥ずかしいことに裏返ってしまった声も気にせずに、綱海くんがまた笑った。字…?私は自分の字に目を落とす。小さい頃習字を習っていたけど、面倒臭くなって辞めてしまった、少し癖のある私の字。綺麗と言われたことなんか今までなかったので、嬉しいような、むず痒いような気持ちになった。

「そ、そうかな」
「おう!俺、お前の字好きだな!」

そんなことを言われ、自然に頬が緩んでしまう。

「ほら、俺の字雑だからさ」
「そんなことないよ。私も綱海くんの字、好きだよ」

私の言葉に綱海くんは一瞬びっくりした後、嬉しそうに笑った。一方私はと言うと、勢いで言ってしまったので、時間差で恥ずかしくなってきた。

「そっか、ありがとな!」
「あ、う、うん!」

私は顔が暑くなるのを感じながら、急いで残りの部分を書いた。綱海くんはにこにこしながら、急がなくていいぞ、なんて言っているけど、そのきらきらした笑顔に私がノックアウトされてしまったことなんて、気付いてないだろうなぁ。


きみを色に例えるなら、


(真夏の太陽のように明るく眩しく、総てを魅了して惹きつける、印象的で鮮やかな、オレンジ色)




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