「勘ちゃーん」

パタパタと教室に駆け込んで来たのは俺の彼女。俺が手を振ると嬉しそうに笑った。一拍おいて、椅子を後ろに向けて俺と話していた兵助も顔を上げた。

「兵助、竹谷くん達待ってたよ」
「うん」

兵助と彼女は幼馴染みで、彼女に一目惚れした俺は散々兵助に相談していた。兵助はのろけみたいな内容も真面目な相談も黙って聞いてくれるし、ちゃんとアドバイスをくれる。これが他の奴だったら、こうはいかないだろう。

「勘ちゃん何考えてるの?」
「え?いや、べつに」
「早くご飯食べよ」

彼女はさっきまで兵助がいた席に座ると、二人分の弁当箱を取り出し、広げた。彼女の手作りの弁当。毎日作ってきてくれるし、美味しいんだ。

「お、今日は唐揚げだ」
「勘ちゃん好きでしょ?」
「うん、好き。ほんとに、いつもありがとな」

俺が言うと、にっこり笑顔を返された。ああ、ほんと可愛いなあ。にやける顔を必死に引き締めて、箸を受け取り、唐揚げに手を伸ばした。

「ん、うまいよ」
「よかった!玉子焼きもね、今日は上手くできたの」

嬉しそうに説明してくれる彼女をじっと見つめる。笑ったり、考えたり、時々ちらっとこっちを見たり。表情がくるくる変わる。

「勘ちゃん、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」

ぼーっと顔を見ていたのがバレたのか、ちょっと怒ったような表情で顔を覗き込まれたので、慌てて食事を再開する。見惚れてた、なんて…まあ、言えなくもないけど。上手くできたと言っていた玉子焼きは、確かにいつもよりも美味しかった。

「うまかった、ごちそうさま!」
「うん!」

笑顔を絶やさない彼女は、自身もごちそうさまと手を合わせると、楽しそうに弁当箱を片付けた。弁当箱を包むその仕草さえ、愛しい、なんて思ってしまう俺は、かなり彼女を溺愛してる。

弁当を片付け終わって、彼女は頬杖をついて、じっと俺を見つめた。目が合うと体がビリビリと痺れるようだ。

「ねえ、勘ちゃん」
「何?」
「勘ちゃん見てたら、もっといちゃいちゃしたくなっちゃった」

ふにゃ、と笑われて、鼓動が早くなる。そんな可愛いこと言われたら、もうどうしようもない。
「じゃあ、教室、出ようか」
「うん」

俺が立ち上がって手を差し出すと、すぐに繋がれる手。弁当はとりあえずそこに残して、俺達は教室を出た。時間は昼休み、空き教室や校舎裏、中庭は大抵昼食を食べている生徒達がいる。人がいないのはグラウンドの方だ。グラウンドの端の木の影になっている場所は、昼練中の部活からも見えにくい。木にもたれて、彼女を抱きしめた。甘い香りが鼻をかすめる。俺の肩に顔を埋めて、きゅっと抱きつき返してきた彼女は、きっと世界一可愛い。

「勘ちゃん、」
「好きだよ」

見上げて名前を呼んできた彼女の耳元で言えば、顔を真っ赤にして、また抱きついてきた。彼女の耳が、俺の心臓のところにそっと触れる。

「勘ちゃん、ドキドキしてる」
「お前があんまり可愛いから」
「ねえ聞いて、わたしもドキドキしてるの」

そっと手を掴まれ、胸に当てられる。柔らかい感触に、別の意味でドキドキして、彼女の鼓動の早さはいまいちわからなかった。ね、と笑われて、曖昧に笑顔を返す。見た目よりも、大きいんだな、胸。

「今、やらしいこと考えたでしょ」
「なっ」
「勘ちゃんのえっち」

そっちが触らせたんだろ、と言おうとした口は、彼女のそれによって塞がれた。あっと思っている間に、彼女の唇は離れ、にんまりと歪む。

「勘ちゃんなら、いいけど」

ああ、もう。今日の彼女は、いつもよりも積極的だ。俺はもう一度彼女を抱き寄せてキスをしながら、頭の中で、昼休みがあと何分あるかを考えた。








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